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アチラのお医者さんと光るトカゲ15
しばらくしてから、ぼくは先生に聞いた。
「なぜあの人はぼくのことを知らないといったのでしょう?昨日会ったばかりなのに」
「そうだね。まあ、あの老人はたしかに最近ものおぼえが悪くなってるからね。——なにせ五〇〇歳ぐらいにはなるから」
五〇〇歳!
「とはいえ、あなたの話だと、昨日はずいぶんトカゲ……ジェームスくんに興味をもっていたようでしたが……」
先生はなにか考えているらしい。
ぼくもちょっとは推理してみることにした。
「……やっぱりあの人が鬼にぼくとジェームスのことを話したんじゃないですか?でもそのことを先生に知られたくないから、ぼくの顔を見ても知らないとすっとぼけているとか」
先生はぼくを見るとほほえんで
「……たしかに、そういうことかもしれません。ただ、それには昨日のハクオウじいさんがいまのハクオウじいさんと同じままなら、という条件がつくでしょうね」
同じままってどういうこと?
あのおじいさんは、そんなにわすれやすい人なのかな?
世のなかには、昨日あったこともおぼえてられないという人もいるって聞いたことがあるから、そういう人、いやアチラモノなのだろうか?
「ついでにもう一つ、寄っておきたい場所があります。いいですか?」
先生が言うのに、ぼくはコクンとうなずいた。
「……ちょっとみやげを買っていきましょうか。そういうものを持って行ったほうが話がしやすい相手なものでね」
と言うと、商店街のおそうざい屋さんで鳥のカラアゲを3パックも買った。
「さて、いま時分はどのあたりにいるかなあ」
歩きながら、上の方ばかり見ている。空、というより電柱や屋根の上みたいなところを念入りにチェックしているみたいだ。
「やあ、あそこなんかどうだ?」
そう言って指さしたのは高速道路の高架下、群れをなしてカアカアわめいているカラスたちだった。
「あっ、いますね。おーい、クロハさん!」
道路の真ん中でカラスに向かって、こんな風に大声で話しかける人がいたら、完全にあやしんで警戒すると思うんだけど、ふしぎと道行く人はおどろきもせず知らん顔をしている。
そして、そのうちに先生の呼びかけに応ずるかのように群れから一羽、特別大きなカラスがこっちに飛んできた……と思ったら、その羽根が一瞬にして大きくふくらんで、次の瞬間には、黒い革ジャンとパンツをまとった女の人になったのでびっくりした。
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