50人が本棚に入れています
本棚に追加
アチラのお医者さんと光るトカゲ16
「あら、のんのん先生。わざわざおいでになってくださいましたの?一声かけてくださればいつでもこちらから参りますのに……それでもうれしゅうございますわ」
青白くきれいな顔立ちなのだけど、声がちょっとガラガラしている。こういうのをハスキーボイス、というんだってジャズ好きのおじさんが前に教えてくれたことがある。
「あの邪魔っけな『ぬけ首』女さえいなけりゃ、いつでもうかがうんですけどねえ。あんな女、クビにしてやればいいんですよ。どうせ初めから切れてる首なんだから。あら、おもしろいわね、これ。クワァーカッカッ」
自分の言ったシャレに、自分で大声で笑った。
先生はだまって、ただ苦笑いしている。
こっちから会いに来たけど、ほんとうはどうやらニガテにしている感じだ。
「……あら、そのかわいらしい坊ちゃんはどなたかしら?お見受けしたところコチラモノのようですけど……」
「藤川芳一です」
とぼくが言うと
「あら、まあ」
クロハという女の人は目を丸くして
「あたしのことが見えるのね?これはめずらしい」
めずらしい、と言われたのはもう三回目だ。いいかげんイヤになってくる。
「どういうご関係?」
のんのん先生はそう言われて戸惑ったようだったが
「えーっと、その、そうですね。今日はわたしの臨時助手として、ついてきてもらったといったところですかね?」
「かわいい助手さんですこと。アチラを認識できるお子さんでしたら、そりゃ先生も今後なにかと便利でしょうね。じゃあ今回はその新しい助手さんのご紹介にいらしたのかしら?」
クロハさんの言い方に、先生は不服げで
「わたしはなにも彼を便利になど使う気はありませんよ。ただ、いま少しだけ付きあってもらっているだけです……あなたにちょっと聞きたいことがありましてね」
「あら。なんだ、やっぱりそんなこと?少しはビジネスぬきで会いに来てくださればいいのに。もお、女心のわからない人ね」
なんだかクネクネとした感じでさわってくるクロハさんにたじろぎながら
「まあまあ、そんなこと言わずに、いかがです?これ」
先生が透明パックに入ったカラアゲを袋から取り出すと
「あら、これ木崎屋のカラアゲね。うれしいわ、先生あたしの好きなものおぼえててくださって……でも、なんだか食べ物でつられる安い女みたいに思われたら心外だわ」
最初のコメントを投稿しよう!