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アチラのお医者さんと光るトカゲ17
「だれもそんなこと思ったりしませんよ。ねえ、藤川くん?」
先生が調子よく話をふってきたので、もちろんぼくは首をコックリとたてにふった。
「そうかしら?じゃあ遠慮なく……」
クロハさんはそう言うと、パックのカラアゲを手づかみにして、道ばたで立ったまま口の中に放り入れた。
そのとき、舌がにょろんと長く伸びたのにびっくりした。
やっぱり、ふつうの人間とはだいぶんちがうみたいだ。
「……それで、いったいなにを知りたいのかしら?」
口の中をペチャクチャ言わせながらクロハさんは聞いた。
ガリゴリ。
ああ、骨までかみくだいて食べてるみたい。
「べつになにというわけではないんですが、ここのところアチラのほうでなにか話題になっていることなんかありませんか?」
「話題といってもねえ、そんなになにもないですけど。……ああ、そういえば『下(した)』のアカカガチに立ち退きをせまった業者がいるって聞きましたよ」
「バカなことを。彼はあの場所を気に入っています、出ていくはずないでしょう」
「ええ、どこのだれだか知りませんけどおどしに行って、逆にやられて返ったって聞きましたよ、オホホホホ……」
アカカガチってなんだろう?
知りたいところけど、たぶん聞いてもよくわかんないんだろうな。
だって、そのあとクロハさんがつづけた話も
「ヒノクルマが空で散歩中、ソラオヨギウオの一団とぶつかってケンカになった」とか
「カリュウの娘がスイコとかけおちした」
だとかといった、やっぱりチンプンカンプンなことばかりだったもの。
先生は、あいづちをうちながらもクロハさんが語るウワサ話の大半にはたいして興味がないようだった。
ただ最後、次の話にだけは、はっきりと関心を示した。
「——そうそう、町はずれの廃棄工場の下にあるアリの巣に泥棒が入ったのはご存知?」
「あのハガネアリの巣にですか?いえ、初耳です」
「先生はあの巣に行ったことがおありかしら?」
「ええ。むかし、あそこの女王アリが産後に調子を崩したことがあってね。往診に行きました」
「先生はアリの巣に入ったことがあるんですか!?」
オトナの話にじゃま入りしてはいけないとは思ったけど、ぼくは思わず聞いてしまった。
「えっ?……ああ、そうですよ。ハガネアリというのはとても大きな種族のアリでねえ。ふつうの働きアリでも二メートルぐらいの背丈はあるものなんです。そんなアリたちの巣ですから、わたしでもその巣に楽々入ることができるんですよ。女王になると六メートルぐらいあります」
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