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アチラのお医者さんと光るトカゲ19
「それで女王も興味を持って話を聞いていくつか買ったらしいですけど、結局すべてニセモノだったらしいですわ。さすがのハガネアリも海の宝石の鑑定は苦手だったようですわね、クックッ……とにかく、その商談をしているスキに盗られたようですわ」
なんだかこのクロハという女の人は、そんなもめごとがあったのが楽しくてしょうがないみたいだ。
「それで今、ハガネアリはかむのに滞在しているワタリネズミたちに水晶の返却をもとめているそうです。ただ、ワタリネズミの方は知らないといっていますがね」
「そりゃそうでしょう。これはワタリネズミたちの仕事ではないと、わたしも思います。彼らはたしかに欲は深いですが、ハガネアリの巣からものを盗むなんて危険なことはしません。第一、そんな器用な知恵は回りませんよ」
先生はすこし考え込むしぐさをみせたが
「……そうか、そういうことか」
なにか納得したらしくクロハさんに
「いや、どうもありがとう。有益な話をいただきました」
と言った。
「なんですよ、他人行儀な。またいつでも、今度はこんな野暮なビジネスぬきで会いに来てくださいましな」
カラアゲの油を口のまわりにべっちりとつけたまま品(しな)をつくるクロハさんだった。
「先生、今の人はカラスなんですか?」
高架下から診療所に戻る途中、歩きながらぼくは聞いてみた。
「うーん、そうといえばそうですが、ちがうといえばちがいますね」
先生は首をかしげながら言った。
「正しくは、カラスの中にまぎれて暮らしている存在とでもいうべきでしょうか。わたしたちはふつう『カラス女』と呼んでいますが、アチラの中でも特に人間とまじりあって暮らしているタイプのモノですね。この町の情報については、アチラのことでもコチラのことでも一番よく知っています。
まだいくつかわからないことはありますが、今回の件も、彼女のおかげで大体こういうことじゃないかという見当がつきました。あのトカゲ……」
「ジェームスです」
「そう、ジェームスくん。彼をきちんと診(み)なおさないといけませんね」
なにがなんだかぼくにはわからないけど、先生はもうすっかり自信があるみたいだ。
「……さっきのアリの宝石泥棒の話と、ジェームスがなにか関係あるんですか?」
「ええ。あると思いますよ」
あんなちっちゃなトカゲと大きな宝石のあいだにどんな関係があるのか、ぼくには見当もつかない。
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