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アチラのお医者さんと光るトカゲ20
「……それに先生、さっきぼくのことを助手って言ってましたけど」
「ああ、すいません。とっさにうまく言うことができませんでね、あんな言い方になりました。迷惑でしたかね?」
「いや、いいんです」
メイワクどころか実はさっきそれを聞いて、ぼくはのんのん先生の助手になれたらどんなにいいだろうと思ったんだ。だってそれってすごくおもしろそうだもの。
でもさすがに「本当に助手にしてくれますか?」とは、あつかましすぎる気がして言えなかった。
「そうそう、藤川さん」
先生は立ちどまってぼくの顔を見た。
「なんですか?」
先生はちょっと言いにくそうにしたあと
「……あの、いまクロハさんのところに行ったことはヨシノさんにはだまっててもらえますか?」
「えっ、なんでです?」
「いやあ、その……実はあのふたりは前からそりが合わなくてね。彼女のところにあなたのような少年を連れて行ったことが知られると、わたしがヨシノさんに怒られると思うんですよ」
ひどく弱気な顔だった。
だから
「……はい、じゃあ別に聞かれないかぎり言いません」
とぼくが言うと
「そうですか。助かります。ありがとう」
ホッとした顔をした。
たぶん、本当はぼくを連れて行ったことが問題じゃなくて、先生がクロハさんに会いに行ったこと自体をヨシノさんに知られたくなかったんだと思うけど、ぼくはもちろんそのことを深くセンサクしたりはしなかった。オトナの事情には深入りしない方がいいと思ったんだ。それが助手のたしなみってものでしょ。
ぼくらはたがいに愛想わらいをうかべながら診療所にもどった。
コーポまぼろしに着くと、先生が立ちどまった。
「変だな。あんなところにウチのサンダルが飛んでる」
おかしく思って中に入ると、待合室のイスがたおれクッションも飛んでいる。あわてて診察室にかけこむと、そこはもっと悲惨で、書類も薬品の瓶もぐっちゃぐちゃに散らかっていた。
そして机とイスのあいだで、ヨシノさんの胴体だけが、後ろ手をしばられた状態で足をじたばたさせている。
「ヨシノさん!?上は?アタマはいったいどこですか?」
「せんせぇ〜。ここですぅ〜」
植木鉢でフタされた棚を開けると、首だけのヨシノさんが飛び出してきた。髪をとどろに乱した表情がものすごい。
「せっ、先生、もうしわけありません。不意を突かれて。トカゲを連れていかれてしまいました」
ジェームスが!
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