アチラのお医者さんと光るトカゲ21

1/1
前へ
/41ページ
次へ

アチラのお医者さんと光るトカゲ21

 あわてるぼくに対して、  のんのん先生は意外に冷静にヨシノさんの胴体をだきおこすと 「それよりケガはありませんか?……ふむ。この診療所を襲うとは、彼らもよっぽどせっぱつまってきたようですね。ここはいわばアチラとコチラの緩衝地帯のはずなんですが……」 「先生!そんなことよりジェームスはどうなっちゃうんでしょう?」 「ふむ……。ちょっと待ってなさい」  先生は散乱している棚の中身からなにかを拾い上げた。  かたちのかわった懐中電灯みたいだ。 「なんですか、それ?」 「簡易型の人工月光灯です。きのうジェームスくんの寝床に敷いておいた氷月石の粉にこの光を当てると、きらきら光るんですよ。その成分が残っていればいいが……」  先生は床にその月光灯の光を当て探った。 「しめた!犯人は粉を踏みしめていったらしいぞ。足跡が残っている」  ほんとうだ!光を当てるとうっすらと靴の形が見える。 「追いかけましょう!」  ぼくらはさっそく追跡を開始した。 「ヨシノさん、休んでいてはどうですか?」  先生が声をかけたが 「いえ、やられっぱなしではすまされません。目にものを見せてやります!」  その鼻息はとても荒い。  先生もそんなヨシノさんの剣幕についてくるのはダメだとはとても言えそうじゃなかった。どうやら、いざというとき、この診療所で決定権をもつのはのんのん先生ではないらしい。  先生とヨシノさん、それにぼくは月光灯をたよりにジェームスのあとを追いかけた。  日中に懐中電灯を照らしてなにかを追いかけている一団なんて人が見たらずいぶんおかしなものだと思うけど、道ゆく人はやっぱりこちらのことなんて気にしな(気づかな)かった。  ぼくたちはかむの駅をこえた北の郊外、原っぱみたいなところに出た。 「彼らにしても、ハガネアリたちに見つかるような目立つことはしたくないはずです。このあたりの屋内でじゅうぶんな場所があるところと言えば……あっ、あそこだ!」  先生が指さしたのは、何年も前につぶれたらしい冷凍食品の工場跡だった。  近寄ってみると、不自然に開いている扉があった。 「いきますよ」  先生のかけ声で一斉に突入した。 006cf407-1488-4738-870b-38c48168c832 「——あっ!やっぱり!」  そこには午前中にぼくをおそったウシオニと、さっき会ったばかりのハクオウじいさんがジェームスを手につかんで立っていた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加