アチラのお医者さんと光るトカゲ22

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アチラのお医者さんと光るトカゲ22

「やあ、あなたですか……」  先生がおどろいた口調で言うと 「……へっへ、悪いね、のんのん先生。長い付き合いのものをうらぎるような形になってしまったが、こればっかりは仕方なくってね」  と、いかにも下品な風(ふう)でじいさんが笑った。  長年の知り合いにうらぎられるなんてつらいだろうな、とおそるおそるその顔をうかがうと、意外なことに先生も少し笑っていた。 「ふふ、そんな『ものまね』をしてハクオウじいさんに罪を着せようたってダメですよ。たしかにびっくりするぐらい似てますけどね。あなたが本物のハクオウじいさんでないことはわかっています」  えっ、どういうこと?目の前にいるのはだれがどう見たって、さっき会ったばかりのハクオウじいさんだよ。 「——あなたもちょっとうっかりものですね。鏡で映すように化けたのかして、じいさんの顔にあるほくろの位置が左右逆になっています。なにせ、わたしは彼の体を何度も見てますから、それぐらいのことはすぐにわかるんですよ。長年のかかりつけ医をなめてもらっては困ります」  それを聞いたとたん、じいさん(のかたちをしたもの)は表情をゆがめたかと思うと、見る見るまに顔が伸びて、口も耳せせまで裂けた白毛のケモノっぽくなった。目つきするどく牙も光って、おっかない顔だ。 「それがあなたの本性ですね。やあ、あなたはシロタヌキですか?」  タヌキっていうより気の荒いオオカミみたいだ。 「ワタリネズミのセールスに化けてハガネアリの巣に入り、紫水晶を盗んだのもあなたですね」  ケモノは声まですっかり変わって 「へえ、もうそこまでつかんだのか?……じゃあ、なんで俺がこのトカゲを探しているのかもわかっているんだろうな」 「まあ、おおよそ見当は」 「それはこまったことになった。先生がこのことをハガネアリたちに黙っておいてくれると助かるんだがな」 「そんなことしたら、わたしがアリたちに琥珀でガチガチに固められてしまいますよ。なにせ彼らは気が荒いですからね。第一、そのトカゲくんはわたしの患者で目下のところ入院中です。そのあいだは、医師としてわたしは彼に責任があります。返していただかねばなりません」 5ec350a2-513d-4bfb-aced-edd30498ba9b シロタヌキは口元をゆがめて 「じゃあ交渉決裂だな……しかたない。先生と事をかまえるのは避けるよう『あのかた』にも言われてるんだが」  男があごでしゃくると、ひかえていたオニが待ってましたとばかりにこちらに襲いかかってきた。 「そうはさせないわよ!」  早速ヨシノさんの首が抜けて応戦するが、オニの方も今度は急所を狙われてはいけないと頭をかばっているので、そう簡単にはやっつけられない。
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