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アチラのお医者さんとエルフの親子1
のんのん先生から知らせをもらったので、ぼくは一週間ぶりに「コーポまぼろし」に向かった。
「こんにちは」
ぼくが診療所のドアを開けると、待ちかねていたかのようにハネツキギンイロトカゲのジェームスがぼくに飛びついてきた。この子と会うのも一週間ぶりだからうれしそうだ。
「わっ。なんだい、びっくりさせるなぁ。……えへへ。なに?ぼくと会いたかったの?」
そうやってじゃれていると、部屋の奥から「野々村診療所」の看護士と受付事務をかねているヨシノさんが出てきた。
「ホウイチさん、いらっしゃい。連絡を見ましたか?」
「はい。もらいました」
ぼくの手には、一枚の紙があった。
学校から帰る途中、なんだかぼくのほうに飛んでくるみょうな紙ヒコーキがあるので、つかんだら、そこに流暢な筆文字で
「シロタヌキが見つかりました。よかったら一度コーポまぼろしまでいらしてください」
と書かれてあったので、そのままランドセルを背負ってやってきたのだ。
「……あの、この紙ヒコーキはヨシノさんが?」
とたずねると
「そうです。先生の字は汚いから、お便りはわたしが書きます。読みにくかったですか?」
いぶかしげなヨシノさんにぼくは
「いえ。そうじゃなくて……」
どうやって、ぼくのところまで紙ヒコーキが飛んできたかということを聞きたかったのだけど、かむのでそういうことをいちいち考えてもしかたないのだろう。
「まあ、おはいりになってください」
すすめられるまま、ぼくは診察室に入った。
そこには、いままでシャワーを浴びていたらしい、ぬれた髪をタオルでふいているのんのん先生のすがたがあった。
「やあ、ホウイチくん、いらっしゃい。待ってましたよ」
その視線の先、患者用のベッドに横たわるのは、あのおそろしいシロタヌキだ。
「ああ、やっと見つかったんですね」
ぼくが言うと
先生は
「ええ。苦労しました。五回目の探索でどうにか見つけたんです」
と、いかにもくたびれたようすで返した。
はじめてジェームスの中にのんのん先生が入ったときは、ぼくもそのそばにつきそっていたけど、そのときは紫水晶の発見のみでシロタヌキは見つからなかった。
そのあと、何回も先生はジェームスのおなかの中に探索しに入ったけど、ぼくはなにせ小学校に行かなきゃならないから、そうそうつきそうこともできず、そのあいだの苦労はよく知らなかった。
奥からヨシノさんが、ぼろぼろになったウインドブレイカーと登山靴を持ってきた。
「……まったく、今回の件だけで服と靴が3セットもだめになりましたよ」
そういえば一回目の探索のとき、ジェームスから出てきたのんのん先生は、まるで怪獣かなにかにやられたみたいに黒こげだった。
「いったいどうしたんですか?中はどうなってました?」
とぼくがたずねても、
青い顔色で
「こどもが知らなくていい世界です」
と言って、なにも教えてくれなかった。
いま見ると、ベッドのシロタヌキはうつろな表情で天井を見つめて目の焦点もあっていない。そこにはぼくをおそったあの恐ろしくふてぶてしいようすはなにもなく、ヨシノさんがあたえた毛布をただつかんでガタガタふるえている。
「わたしたちが見つけたときにはすでにもうこんな状態でした。よっぽどこわい目を見たんでしょう。わたしも、もう二度とあそこに行くのはごめんです。あなたもけっしてジェームス君のおなかの中に入ろうなどと思わないことです」
のんのん先生は、めずらしくきびしい表情でぼくに言った。
ぼくは自分にからみつくジェームスに
「おい、おまえのおなかの中はいったいどうなってんだい?」
とたずねたが、ハネツキギンイロトカゲはあえかなハネをふるわせて、ただ、きょとんとこちらを見ているだけだ。
「シロタヌキくんは見てのとおり、心も体も痛めていますからこのまま入院させます。ヨシノさん、手続きをお願いします」
「はい」
言うやいなや、手早く簡易宿泊棚にシロタヌキを放りこむヨシノさんの手際は、乱暴だけどあざやかだった。
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