アチラのお医者さんとエルフの親子5

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アチラのお医者さんとエルフの親子5

「それはいけませんね。すぐに探し出して保護しないと……。アチラモノもそうですがコチラモノにケガでもさせたら大変だ。とはいえ、どうしますか……」  と思案しだした。 「すべてはあのドワーフのいやらしいペンキのせいでございます。化学物質に毒されて、せがれの頭がおかしくなってしまったんでございます!」  ジョゼフィーヌさんは、さめざめと泣きだした。  先生はそんな、一見わかい、実は数百歳のお母さんをななめに見ていたが 「――その息子さんの変化というのは急なことでしたか?なにかきっかけになるようなことに思い当たりはありませんか?」  と問うた。  ジョゼフィーヌさんはすすりあげながら 「きっかけと申しましても……そういえばあの入れ墨が……」 「入れ墨?」  「いえ、けっきょく入れ墨ではなかったのですが、三週間ほど前、せがれが服を脱いで風呂に入るときに、背中にあざのような黒いものがちらりと見えた気がしたのでございます。わたしはあわてましてね。あろうことか誇り高きエルフがその美しい肌にきずをつけるだなんて、おそろしい。息子にせまりまして体を見せろと申しましたら、しばらくいやがっておりましたが、しまいには素直に服を脱ぎました。――そしたら、なんということでしょう。なにもなかったんでございますよ」 「なにも……ですか?」 「はい、わたくしはまちがいなく見たと思ったのですが、どんなに背中をあらためてもなにもございません。息子は『自分はなにもないと言っているのに、うたがうなんてひどいやつだ、もうあんたなんか母親じゃない。家を出ていく』などともうします。  わたくしはいっしょけんめいあやまりなだめて、なんとかその場はおさまったんでございますが、たしかにそのとき以来、息子のわたくしに対する態度はひどくなったと思います。信用を失ってしまったのか、勤める前のそらぞらしい態度にもどって、わたくしになにももうさないようになりました。  たしかにうたがったのは悪うございましたが、エルフだってミスはありますわ。なのにしまいには、わたくしのことを『ババア』よばわりするんでございますよ。ひどいじゃないですか。息子とふたり、こんな極東の地で一〇〇年間がんばって育ててきたわたくしにむかって『ババア』だなんて」 bedd1fce-4b56-4482-8339-b227b4fd6805 またさめざめと泣きだした齢(よわい)数百歳のエルフママを、のんのん先生は 「そうですね。ただの見まちがいなら、そんなに責めてはおかしいですね……」  てきとうになぐさめながら、なにか考えている。 「――ふむ。では、わたしが力になることができる事例かどうかわかりませんが、できることはしましょう。まずはとびだした息子さんを探す必要がありますが……そっちはプロにまかせます。ヨシノさん、手配をしてください」 「はい、探し屋ですね」 「ええ、おねがいします。ジョゼフィーヌさんは興奮してらっしゃるようですから、息子さんの行方がわかるまで、あたたかいお茶でも飲んでいただいて、休んでいらしてください――そのあいだにわたしたちはほかを調べます」  先生は白衣を脱ぐと、ぼくのほうをちらと見た。 「いっしょに来ますか?」  ぼくはもちろんうなずいた。
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