49人が本棚に入れています
本棚に追加
アチラのお医者さんとエルフの親子7
「やあ、ブロッケン親方。仕事中おじゃましてもうしわけありません」
「なんだ?のんのん先生か。なにか用か?こないだ治してもらったところならもうだいじょうぶだ。これ以上の治療費は出さんぞ」
そんな、いかにもケチくさい発言をするブロッケン親方は、なんというか、ぼくの思いえがいていたドワーフのイメージと、ちょっとちがっていた。
たしかに背はぼくよりちょっと高いくらいの、ずんぐりむっくりとした体型だけど、髪の毛があまりなく、一見お坊さんみたいだ。なによりヒゲがない。ヒゲのないドワーフなんてケチャップのかかってないアメリカンドッグみたいで、なんだかつまらなかった。
もちろん、そんなこと、本人には言えやしないけど。
「――治療の対価をあなたからいただいたおぼえはないですけどね。まあ、お変わりがないのはなによりです。今日は、ちょっとおうかがいしたいことがありましてね」
「なんだ?家の内装か?あんたのとこなら安くしとくぞ」
商売のこととなると、とたんにエビス顔になる親方に
「いえ、それは今度またお願いします。私のたずねたいことは、あなたのもとで働いているエルフの青年のことです」
「なんだ?エアーノスのことか?あいつならおらんぞ。きょうはなんでか勝手に休んでおる。仕事に慣れてきてナメテやがるんだな。とっちめてやらにゃならん、当分タダ働きだ」
ペンキのかき混ぜ棒を投げ捨てると、これもペンキまみれのイスに親方はこしかけた。
すわりたきゃすわれとイスをすすめられたが、もちろん、ペンキでべちょべちょのイスにはのんのん先生もぼくもすわらず、立ったままたずねた。
「実は、彼の治療を母親に依頼されましてね」
「治療?なんだ?あいつ、やっぱり体の調子がわるかったのか?どこが悪いんだ?」
「ええ、ちょっと体調がすぐれないようなんですが……」
先生は、エアーノスが家をとびだして行方不明であることにはふれず、ぼやかして
「やっぱりと言うからには、あなたもその、エアーノス君がおかしいと思っていたんですか?」
「ああ、どうもこのごろ、仕事中でも気ィぬいてやがる時間があってな。あぶねえから、どやしつけたんだが、そうか、病気だったか。当分、給料は無しにしねえといけねえな」
きびしい判断をあっさりくだす親方の発言を先生はスルーして
「治療のために聞きたいんですが……エアーノス青年はもともと、どういった経緯でこちらにつとめるようになったんですか?」
と、たずねた。
親方はツナギのポッケから出した「きなこ飴」をかじりながら
「――ああ、半年前だったか?ふらっとここに来やがってな。働かさせてくれ、って言うからびっくりしたぜ。なんせエルフだろ?あいつらは妙にほこりが高くておれたちドワーフのことを見下しがちだからな。
そんなエルフのわかいやつが職人になりたいっていうからおどろいた。
なんでもあいつが言うには『母親は学歴を身につけろとやかましいが、自分には頭を使うような仕事は向いてない。職人の仕事のほうがカッコよく見える』だとよ。時代はだいぶ変わったと思ったぜ、エルフがドワーフの仕事をカッコいいなんて言うなんてよ」
口のまわりをきなこまみれにしながら親方はわらった。
そのピクピクとごきげんそうにふるえる、すこしとがった耳を見ていると、ドワーフとエルフは親戚なのだという先生のことばがわかる気がした。
最初のコメントを投稿しよう!