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アチラのお医者さんとその師匠2の2
バサリッ!
急に、式神の背後から袈裟(けさ)がけに切りつけたものがある。
それは、まるっきり白ずくめの装束に白頭巾をすっぽりかぶって直刀を持った、たしかに不審者だ。
「ひょえぇぇぇぇぇっ!!」
おじさん(型式神)は背中をざっくり切られたけど、人間じゃないから血も出ない。ただ、急に切りつけられてあわてふためき、腰を抜かした。
そこに、とどめの二振りめをおろさんとした曲者の腕(かいな)に
プスリッ!
突き刺さったのは、飛んできた手裏剣ならぬ
「……メス?」
医療用の小さな刃物だった。
「――白昼堂々に斬りかかるとは……本来、街の掃清(はききよめ)役たる白御幣(シロゴヘイ)が、いつから通り魔になった?」
声をかけたのは
(あっ、お師匠(っしょ)さん!)
昨日会った金髪の麗人だ。指のあいだに予備のメスをはさんでいる。
メスを投げるなんて、ブラックジャックみたいだな!
白装束は、彼女の威圧に実力差を感じたのか、何も言わず逃げ出した。
ぼくはあわてて式神おじさんにかけよって
「だいじょうぶ!?」
問うと
「はい、われらは式神ですから。ずたずたにされていたらまずかったですが、これぐらいの傷ならどうってこともありません」
ぺろんと傷口を引っ付ける。
よかった。ヨウコちゃんが持ってる妖刀・松風相手ならこうはいかないよ。切り口からポロポロ崩れちゃうところだ。
麗人は曲者のすがたを目で追っていたが、追いかけるまでもないと判断したらしい。メスをしまうと、ぼくに気安く話しかけてきた。
「――よう。また会ったな、少年」
たしかに昨日会ったばかりだね。そのとき言ってた用事って、終わったのかな?……って、それよりお礼を言わないと。
そばにいたのに、ぼくはなにもできなかったからね。
「ありがとう。お師匠さん」
頭を下げると、女性は
「……なんだと?」
その胡乱(うろん)顔がおかしくて
「だって……あなた、のんのん先生の師匠なんでしょ?」
ぼくが言うと
「――ほう。やつがそう言うたか?……そうか、ならそういうことにしておくか」
美しい金髪を波打たせながら、カラカラとわらう。
よくわからない。
式神も頭を下げて
「ありがとうございます、通りがかりのおかた。おかげで命拾いいたしました」
「礼を言う必要はない。この子を見かけたので話かけようとしたのに、邪魔だったから追っぱらっただけだ」
「また、ご謙遜を」
式神のことばに
「?けんそん?なんだそれは?俺は事実を述べたのみだ」
照れ隠しじゃなくて、本当にそうだったんだろう。
のんのん先生の師匠だけあって、この人もちょっとかわってる。
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