アチラのお医者さんとエルフの親子10

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アチラのお医者さんとエルフの親子10

「先生、やっぱりあのペンキが原因でしょうか?」  ぼくは工房からのもどり道、先生にたずねた。 「そうですね、たしかに化学物質だから、吸いすぎたらエルフの体には毒になるかもしれません。それにオオヨダレクリの唾液をつかっていることも気にはなりますね。なにせ、アチラがらみの物質はとっぴな影響があることがありますから」 「あの親方はお金のためなら、職人のカラダなんかどうでもいいんじゃないかと思ってるんじゃないですか」  ぼくは、ブロッケン親方のらんぼうな言いかたにショックを受けていた。  おとなになっても、あんな仕事場につとめるのはいやだな。 「まあ、そう見えてもしかたないでしょうね。あの親方ががめついのは本当ですから。でも、まあそれほど問題はないと思うんですよ。口に出すことばとおなかの中がいっしょとはかぎりませんからね」  どうも、先生は親方よりほかのことに気を取られているようだ。 「なんで先生は入れ墨の話をしたんですか?エアーノスさんには入れ墨が入ってなかったって、おかあさんが言ってたじゃないですか」  ぼくが問うと 「――入っていた、と思ったのに入ってなかったというのに気を取られてねえ。エルフは森の狩人として非常に鋭敏な五感をもっています。そのエルフがなにか見まちがうなんて聞いたことなかったんですよ。それで親方に聞いてみたんです。すると、入れ墨を入れるつもりだったという職人がいましたね。これはただの偶然でしょうか……」 「でも、ジャックさんにも入れ墨は入ってないんでしょう。そう親方が言ってました」 「そうですね。見なかったと言ってましたね。――ただ、ちょっと気にはなりますね。においのこともありますし……」 「においって、そういえば……?」  さっき、さんざん鼻をひくつかせていたのはなんですか、と聞こうと思ったら、先生が急に足を止めた。  ――なんだ?  見ると、道のまんなかに、銀色のふさふさとしたものが立ちふさがっている。  ――犬?  しかし、それは犬としてはあまりに見た目がするどすぎる。面がまえも体つきも、人間にこびない野性味が感じられた。まるで、自然のオオカミみたいだ。  その生きものはなんだか、おそろしい面がまえでこっちをにらんでいる。  今にも飛びかからんいきおいだ。 5a658b2c-2961-4c0f-9493-bc7876bb6dcc 「せ、せんせい」  ぼくはおそろしくなって、思わず先生の服をつかんだ。 「ぐるるるぅ。あなたがのんのん先生か?」  オオカミがしゃべった!アチラモノにちがいない。  しかし、なんておそろしい声なんだろう。まるで地獄の底からひびてくるようなうめき声だ。 「そうですが」  先生がこたえると、  オオカミはかしらを下げて(とびかかってくるのか?) 「――毎度、おせわになってます。ハナキキ・カンパニーです。ご依頼の捜索対象を発見しましたので報告に上がりました」  と、礼儀正しく、あいさつした。
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