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アチラのお医者さんとその師匠3の13
scene92…… フェイド・イン
平羅平羅城の天守閣内部は高層階までの吹き抜け空間になっている。
その底の大広間にあるのは薬師如来像。そして、その前に
「……巻物!」
を見つけて駆け寄ろうとするトカゲ丸の前に、小忌衣(おみごろも)をまとった殿様らしき幽霊が浮かび立つ。
「うぬっ!?さては、おぬしが白紙鶴利(しらがみつるり)か!」
「――そのとおり。よくまいったな、鶴々丸(つるつるまる)」
「つるつるまる?拙者はそんな名ではない。トカゲ丸だ!」
「いや。おまえは、まちがいなくわが一子(いっし)・白紙鶴々丸よ。十年前、この城が落城する直前に逃したのだが……逃げきることはかなわかったようだな」
「なにをわからぬことを!それより早く巻物をわたせ!そして妖怪どもの跋扈をとりやめるのだ!」
少年忍者のさけびに、幽霊は力なくうなずくと
「――巻物はわたそう。おまえには、その資格がある。しかし、巻物を手にしたところで妖怪の跋扈は止まらぬぞ。なぜなら平羅国の妖怪跋扈はこの巻物のせいではないからだ。いま領内でおきている異常はすべて、この城を取り囲むように設置された櫓の放つ香による。わしらはなんとかその影響を防ごうと苦心してきたが、もはやその努力も潰(つい)えた。
『敵』にこの天守閣に侵入されてはどうしようもない。わが配下の白紙衆も、すっかり『そこにおるもの』に取り込まれた」
「そこ?」
ふりかえるトカゲ丸に
「よくやった、トカゲ丸……いや鶴々丸。よく我らをここに引き入れてくれた!」
「やっ、おまえは黒巻紙!まだ生きておったか?」
平然と立つ黒装束の仮面忍者は
「はは。おまえにわしが負けるはずもない。なにせ、おまえの手の内すべてをわしは知っているのだからな」
「なにぃっ!?」
「――ハハハッ。まだわしの正体がわからぬか、トカゲ丸」
「なっ!その声は!」
仮面を外すと、そこにあるのは
「老師!?な、なぜ黒巻紙が老師のすがたを!?」
「ははっ。それはことの順序を間違えておるぞ、トカゲ丸。おまえが老師として慕ったものの正体こそが、異髏紙(いろがみ)団の団長・黒巻紙なのだ!おまえは最初から謀(たばか)られておったのよ!」
「な、なにをたわけたことをおっしゃられます。おししょうさま」
「まあ、聞け。そこにおる幽霊の申すとおり、おまえこそ白紙鶴利の一子・鶴々丸なのだ。
十年前、この平羅国は公正明大な領主・白紙鶴利のもと、民も豊かに暮らしていた。それを、わしが率いる異髏紙(いろがみ)団が、ひそかに不忠の臣・綺羅紙照狩と手を組み鶴利を討ったのよ。われらは公儀隠密などではない」
「な、なんとっ!?」
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