49人が本棚に入れています
本棚に追加
アチラのお医者さんとエルフの親子11
オオカミさんは、種類的には「カムノヤマイヌ」というらしい。
「ヤマイヌというのはオオカミのことです。だから、彼らをけっしてふつうの犬よばわりしてはいけません。そこに彼らはたいへんなこだわりを持っていますから」
と、注意を受けた。
カムノヤマイヌはかむの固有の、もちろんアチラに住むオオカミで、いくつかの群れから成って生活しているらしい。
ハナキキ・カンパニーは、そのうちの一つの群れが経営している便利屋で、のんのん先生もよく利用しているという。
なんといっても鼻が利くから、人やモノをさがすことにかけては、このあたりで一番らしい。
「あなたは新入りさんですか?初めてお会いしますね」
「はい、ハナコともうします。つとめて二週間です。あのペンキ屋はわたしどもにはニオイが強すぎるので、ここで出てこられるのを待っておりました」
なんと、女の子だった。
よく見直すと銀色のふさ毛は流れるようで、とても美しい。
「対象は見つけましたが、混乱状態で母親の言うことも聞かないそうです。無理につかまえてケガをさせるわけにもいかないからと、うちの社員が三頭がかりで追いこんでいます。あとは先生のご判断です」
「ああ、手間を取らせます」
のんのん先生とぼくはハナコさんの先導のもと、エアーノスさんが見つかったという公園に向かった。
その場には、ヨシノさんとジョゼフィーヌさんがいた。
「ああ、先生にホウイチくん、こっちです」
「ああ、先生!どうぞ、はやくエアーノスをお助けくださいまし!」
ジャングルジムのてっぺんにしがみついているのは、すっかり正気を失ってうめいている金髪の美青年だった。
――ぼくは、こんなに美しい男の人の顔を見たことが無かった。短く切りつけた髪に、無精ひげでワイルドに見せようとしても、その美貌はちっともそこなわれていない。さすがはエルフだ。
しかし、いまはその美しさが、ぎゃくにいたいたしかった。まるで手負いの獣のようなすがたはおそろしくあわれだった。
「ぐわぁうぅぅっ!」
ジャングルジムのまわりを逃がさないように取り囲んでいるハナキキ・カンパニーのオオカミたち相手に、ことばにもなっていないうめき声で威嚇する。
「――ああ、エアちゃん。あたしのかわいいエアちゃん。どうか、もとにもどってちょうだい」
ジョゼフィーヌさんが、なみだをながしながら息子に近づこうとしているのをヨシノさんが、あぶないからと取りおさえていた。
――しかし、こんな大さわぎになっているのに、その横の砂場では、わかいお母さんたちが何事もないように小さなこどもたちを遊ばせているんだなぁ。
あの人たちには、この大さわぎが見えていないのだ。
このアチラモノとコチラモノの世界の差には、ぼくはまだ慣れることができない。
「追いつめることはいたしましたが、わたしどもはジャングルジムの上にのるのは苦手です。いかがいたしましょうか?」
ハナキキ・カンパニーのチームリーダー、タケルさん(オス・色は黒)とのんのん先生は、事務的に話をつめていた。
「ウ――ン、そうだね。いや、ありがとう。おさえるのはこっちでしましょう。ちょっと手荒だけど網でもかけてとりおさえるしかなさそうですね。……でも、下から投げてもうまくつかまえられそうもないな。こうなったら、ちょっとヨシノさん、おねがいできますか」
「えっ?あたしがですか?」
ジョゼフィーヌさんをなだめるヨシノさんは、ぼくのほうをちらりと見て
「ちょっとホウイチ君の前でははずかしいですね」
と顔を赤らめながら言った。
先生は
「前に、オニの頭にかじりついたところも見られたのでしょう?今さらはずかしがってもしかたないでしょう?はい、これくわえて」
と、タケルさんから借りた、ロープで編んだ網をわたす。
「前はとっさのことでしたから。うぅぅ」
ヨシノさんは、はずかしげにぼくのほうを見ると、しかしそれでも先生の言いつけに忠実に、網を口にくわえると、すぽんと首をぬかせて飛び立った。
エアーノスはうなって、ジャングルジムの上を飛ぶぬけ首を威嚇するが、ヨシノさんは気にせず、的をたがわず
ばさり。
見事な投網を見せた。
「――がるうぅぅぅ!」
網にからまり、うなるエルフの青年を先生が引きずりおろし、ハナキキ・カンパニーの四頭らとともになんとかおさえこんだ。
「あいた!顔をけられた!」
「さわぐんじゃねえ、このやろ!」
「ああ、エアーノスちゃん、エアーノスちゃん!」
そんな、大さわぎでとりおさえているぼくたちを気にとめることもなく、おかあさんたちが空いたジャングルジムでこどもたちを遊ばせはじめた。
木にはめずらしい、リスもいる。
「今日は、ほんとにのどかなお天気ねえ」
最初のコメントを投稿しよう!