アチラのお医者さんとその師匠3の22

1/1
51人が本棚に入れています
本棚に追加
/433ページ

アチラのお医者さんとその師匠3の22

 のんのん先生のことばに、伽羅ははたとしたようで 「……そうだ、俺は作られたんだった。はるか昔に……そうだ。俺は、前はちゃんとそのことがわかっていた……なぜだ!なぜ比丘尼は俺に自分のことをわからなくさせた!?」  問うと、先生は苦しげに 「――あなたが、あまりに人間らしくなられたからだと思います、伽羅。しのびなかったのではないでしょうか?」  そのことばに、伽羅……あまりに人間すぎる式神はヨシノさんをにらみなおして 「やはり!おまえは最低な外道だ、比丘尼!自分が作ったくせに、あつかいに困って俺から目を背けおったな!そしてその後始末をすべてのんのん……自分の愛する弟子に投げやがった!」  そして、弟弟子にむかって 「その女は、俺がいかに尽くそうと笑みひとつ見せたことない!ずっと後から来たくせに、おまえばかり愛された!そして、邪魔になった俺は追い出された!……にくい!おまえがにくいぞ!のんのん!!」  涙を流してなじる。まるっきり、生みの親に愛されなかったこどもの訴えだった。 「こうなったら、ウイルスをぶちまけ暴れて、この街を破壊し尽くしてやる!」  過激なことを口走る伽羅だったが 「そうはいきません、兄さん」  先生は封縛テープを締めつけ、伽羅の動きを封じる。 「おまえごときにこの俺が……ふんっ!あっ、くそっ!!」  身をよじらせ逃れようとするが、ままならない。   かつて、この不出来な弟弟子は兄弟子に叱られっぱなしだったのだろう。  しかし、今は違う。その弟弟子こそが、当代の「アチラの医者」なのだ。   「――この布は……前におまえに教えた捕縛縄の応用か?」  我が身を戒める霊具をいまいましげに観察した伽羅が問う。 「ええ。素材を工夫してみました。いかがでしょう?」  弟弟子の返事に、  少し冷静を取り戻して 「ふぅん……これは麒麟(きりん)の毛を織り込んだな。オス……麒のほうか?……ふむ。伸縮自在で、強度もかなりある。水には弱そうだが、実用には困るまい。なかなかの出来だ」  そこは研究者らしく、客観的に評価する。 「おそれいります」  先生は応えながら、かばんから瓢(ひさご)を取り出した。  伽羅はそれを見て 「――ふんっ。この期(ご)に及んでも、俺を殺さず封じる気か?のんのん。  そんなことをして、なにになる?滅却せぬかぎり、俺はおまえと、そこのクソ尼のまがいものを憎み続けるぞ!おまえたちに害を与え続ける!それでもよいのか!?」  問うと、先生はこまった表情で 「そう言われても……しかたないでしょう?だって、わたしにあなたは憎めません」 「――そういう問題ではないわ!この愚か者め!だいたい、俺を封じたぐらいでこの一連の騒擾(そうじょう)が終わると思っているのか!?そんなわけがあるまい!……この、いくら教えてもわからぬ出来損ないが!」  ののしる兄弟子を 「……すみません、兄さん」 a93011f9-3f99-4844-bcd8-f78e398919de 先生は、頭を下げながらひょうたんに吸い込んだ。 abb0f81a-01cb-4f72-801d-cb9ff4747803 同時に、映画が終わった。
/433ページ

最初のコメントを投稿しよう!