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アチラのお医者さんとその師匠3の22
のんのん先生のことばに、伽羅ははたとしたようで
「……そうだ、俺は作られたんだった。はるか昔に……そうだ。俺は、前はちゃんとそのことがわかっていた……なぜだ!なぜ比丘尼は俺に自分のことをわからなくさせた!?」
問うと、先生は苦しげに
「――あなたが、あまりに人間らしくなられたからだと思います、伽羅。しのびなかったのではないでしょうか?」
そのことばに、伽羅……あまりに人間すぎる式神はヨシノさんをにらみなおして
「やはり!おまえは最低な外道だ、比丘尼!自分が作ったくせに、あつかいに困って俺から目を背けおったな!そしてその後始末をすべてのんのん……自分の愛する弟子に投げやがった!」
そして、弟弟子にむかって
「その女は、俺がいかに尽くそうと笑みひとつ見せたことない!ずっと後から来たくせに、おまえばかり愛された!そして、邪魔になった俺は追い出された!……にくい!おまえがにくいぞ!のんのん!!」
涙を流してなじる。まるっきり、生みの親に愛されなかったこどもの訴えだった。
「こうなったら、ウイルスをぶちまけ暴れて、この街を破壊し尽くしてやる!」
過激なことを口走る伽羅だったが
「そうはいきません、兄さん」
先生は封縛テープを締めつけ、伽羅の動きを封じる。
「おまえごときにこの俺が……ふんっ!あっ、くそっ!!」
身をよじらせ逃れようとするが、ままならない。
かつて、この不出来な弟弟子は兄弟子に叱られっぱなしだったのだろう。
しかし、今は違う。その弟弟子こそが、当代の「アチラの医者」なのだ。
「――この布は……前におまえに教えた捕縛縄の応用か?」
我が身を戒める霊具をいまいましげに観察した伽羅が問う。
「ええ。素材を工夫してみました。いかがでしょう?」
弟弟子の返事に、
少し冷静を取り戻して
「ふぅん……これは麒麟(きりん)の毛を織り込んだな。オス……麒のほうか?……ふむ。伸縮自在で、強度もかなりある。水には弱そうだが、実用には困るまい。なかなかの出来だ」
そこは研究者らしく、客観的に評価する。
「おそれいります」
先生は応えながら、かばんから瓢(ひさご)を取り出した。
伽羅はそれを見て
「――ふんっ。この期(ご)に及んでも、俺を殺さず封じる気か?のんのん。
そんなことをして、なにになる?滅却せぬかぎり、俺はおまえと、そこのクソ尼のまがいものを憎み続けるぞ!おまえたちに害を与え続ける!それでもよいのか!?」
問うと、先生はこまった表情で
「そう言われても……しかたないでしょう?だって、わたしにあなたは憎めません」
「――そういう問題ではないわ!この愚か者め!だいたい、俺を封じたぐらいでこの一連の騒擾(そうじょう)が終わると思っているのか!?そんなわけがあるまい!……この、いくら教えてもわからぬ出来損ないが!」
ののしる兄弟子を
「……すみません、兄さん」
先生は、頭を下げながらひょうたんに吸い込んだ。
同時に、映画が終わった。
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