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アチラのお医者さんとエルフの親子12
つかまったエアーノスは、ぐるぐる巻きにしばられてコーポまぼろしに運ばれた。
「うーん、どうしますかね」
先生は椅子に座って気が立ったままのエルフの青年を観察している。
「おかしくなった、っていうより、どうも乗っ取られているみたいなんだよなあ」
しきりに頭の上のほうをみると、においをかぎながら
「うん。やっぱり、思ったとおりだ」
そういえばエアーノスさんからただよう微妙なにおい、これをぼくもブロッケン親方の工房でかいだ気がする。
でも、ペンキ缶からじゃなかったな。
たしか……
と、ぼくが思い出す前に先生は、方針をさだめたらしく
「ヨシノさん、浴槽にお湯をはってください。さあ、今からみんなで彼をお風呂に入れますよ」
言いつけると、暴れる青年をおさえて服を脱がせ、お湯を張ったバスタブにいれた。
先生は棚から大きな白い紙と謎の粉を手に持ってやってきた。
エアーノスは先生がもっている粉に気づくと、おびえたようにあばれだした。
「ああ、エアーノス、エアーノス、わたしのかわいいぼうや。――先生、息子がいやがっております。それは必要なものでしょうか?」
「ええ、必要です。おかあさんも心を強く持って、ちゃんと息子さんを取り押さえておいてください、大事な治療ですから。――ふむ。やはり、わたしも取り押さえるのにまわらないといけないようですね。ホウイチくん、もうしわけないですがお願いできますか?
いまから、この粉を彼にふりかけます。そしたら、彼の体のどこかから、なにか『みょう』なものが出てくると思いますから、それをこの紙でおさえてつかまえてください」
「あっ、はい」
みょうなものってなんだろう?
でもぼくにそんなことを聞く余裕はなかった。
そうしているあいだにもエルフは暴れて、湯船をとびだしそうだったからだ。
「さあ、治療です!みんな心してかかってください」
先生がなぞの粉を体にかけると、エアーノスは火がついたように暴れ出した。すごい力だ。
先生とヨシノさんとジョゼフィーヌさん、おとなが3人がかりでも逃げられそうなぐらい、湯からぬけ出ようと必死の形相だ。
「ふぎぎぎぎぃ――!」
それに対して
「いったい、どこにかくれている?ここか!」
先生がそう言いながら粉を頭にかけると、
なんということだろう!なにか得体の知れない黒く薄っぺらいものが髪の毛の中からあらわれて、背中のほうに這いまわるように逃げていく。
「よしっ、出てきた!さあ、ホウイチくん、そいつです!それをその紙でおさえつけてください!」
ぼくはあわてて、その黒い、ねにょねにょしたものに紙を当てた。
(――うえっ!紙を通してでも、なんだか虫みたいなゲジゲジとしたものがうごめくのが伝わってくるよ!)
ぼくは気もちわるいけど、必死になって、それをおさえこんだ。
すると、そのうちだんだんと紙の下のうごきが弱まってきた。
もうエアーノスさんも、あばれるのをやめて、ぐったりとなっている。
先生はその瞳孔に光をあてて、ようすを確認すると
「こちらはもう大丈夫です。ホウイチくん、ありがとう。手をはなしても、もう逃げませんよ」
そのことばにぼくがおそるおそる手をはなすと、紙の下では、まだなにかがぴくぴくと動いているが逃げることはなさそうだ。
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