アチラのお医者さんとエルフの親子13

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アチラのお医者さんとエルフの親子13

「先生、いったいこれはなんですか?」 「ひっくりかえして見てごらんなさい」 f0da82b0-410f-4cb6-ba68-455278b00bd6  言われたとおり紙をひっくりかえすと、そこには 「どくろ?」  見るからにガラの悪そうな青黒いしゃれこうべの絵が、紙にえがかれていて、しかもそれが 「えっ?動いてる?」  紙の上でアニメのようにふるえながら、舌を突き出しこっちを威嚇している。 「なんですか?これ」  ぼくがたずねると、  先生は 「入れ墨ですよ。ただし『生きて』ますけどね。まあ、説明は今度にしましょう。今はこの青年への処置の方が先決です」  ベッドに運ぶと、ジョゼフィーヌさんが、なみだで顔をぐちょぐちょにしながら、やわらかいタオルで気を失った息子の体をていねいにぬぐっていた。 「ああ、ぼうや、ぼうや。わたしのかわいいぼうや」  次の日、学校が終わるとぼくはあわてて診察所に行った。  もちろん、エルフのエアーノスさんの様態が気になったからだ。  すると、意外にもあんな大さわぎがあったにもかかわらず、エアーノスさんは一晩入院しただけで、今日の午前中のうちにもう家に帰ったという。 「まあ、もうこいつは取りましたから安静にしとけばいいだけですからね。おうちのほうがいいでしょう」  先生が入れ墨を封じ込めた紙を机に置くと、そのまわりをジェームスが、うさんくさげに旋回する。  すると、ドクロ型の入れ墨はきのうと同じく形を変えながら、ハネツキギンイロトカゲを威嚇してきた。  先生は、その凶暴そうな様子を見ながらぼくに解説を始めた。 「この入れ墨につかわれているインクは、アオグロネチョネチョといってね、液体状のアチラの生きものです。そのインクが意志を持って、エアーノス君のこころを支配しようとしていたんです」 「そんな!インク自体が意志を持っているんですか?」 「わたしもはじめて見ました。入れ墨として相手の意識をのっとろうとするなんてね」 「どうやって気づいたんですか?」 「においです」 「におい?」 「ええ。ブロッケン親方の工房に入ったとき、私がしきりに鼻をひくつかせていたのをおぼえていますか?」 「はい、ペンキのにおいをかいでたんじゃないですか?」 「いえ。それよりも、あのジャックというゴブリンに会ったとき、そのまわりから、おぼえのあるにおいがしたからです。はじめは思い出せませんでしたが、しばらくかいでいるうちに思いだしたんです」 「それが、そのアオグロなんとかですか?」 「ええ。わたしは以前、アオグロネチョネチョをあやまって踏んづけてしまって、そこから精神が不安定になったオカボウズの治療をしたことがありましたから、その独特なにおいにおぼえがあったんです。  ですから、ペンキの成分を親方にたずねたんですが、オオヨダレクリ以外のアチラモノは使われていないと言いますし、親方自体アオグロネチョネチョのにおいに気付いていないようでした。  あの親方は長年、つよい化学薬品を扱ってきたせいで鼻がわるいんです。ちゃんと治療に来いと言っているんですが、なかなかめんどくさがって来ません。だから職人がただよわせている妙なにおいにも気がつかなかった。  とにかく、あのジャックという職人が事情を知っているはずです。だから彼をおさえておいてもらうように昨晩、親方に連絡したんですけど……」  そこで、のんのん先生はことばを切った。 「どうかしたんですか?」 「逃げられちゃいました」 「にげられた?」 「ええ。きのう、わたしたちとやり取りしてマズイと思ったんでしょうね。親方が彼のねぐらを調べたときには、もぬけのからだったそうです」  ぼくはそのあと、回復したエアーノスさんからのんのん先生に語られた、こ とのあらましを聞いた。  それによると、あのわかい(?)エルフは、やはり親方や母にだまって、自分の体に入れ墨を入れたのだった。  そして、それをすすめたのが先輩職人のジャックだった。
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