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アチラのお医者さんと光るトカゲ4
奥の部屋に入ると、そこは思ったよりずっと広い部屋だった。
古そうな本や書類が本棚にぴっしり並んでいる。
その中に白衣を着た金髪の男の人が机に向かって書き物をしていた。ぼくの通っていた歯医者さんはパソコンを使っていたけど、ここではまだ手書きでやっているらしい。
「はい、どうぞ。いらっしゃい。いかがされました?」
こっちを向いたその顔は、なんていうのだろう?
若いのだか年がいってるのかよくわからない。ぼくのおじさん(お母さんの弟)より若く見えるといえば若く見えるし、おじいさん(お母さんのお父さん)ぐらいの年といえばそれぐらいにも思えた。
まっ黄々(きいきい)の短髪に、ほんのりとあるクチヒゲがあやしいフンイキたっぷりだ。白衣の下は「ウォーリーを探せ」みたいな赤白のボーダーシャツ。外で会ってたら、ぜったいこちらからは目を合わさないタイプだぞ。
これが、のんのん先生だった。
「この子です。ケガしてるみたいです」
「ほう……、どれどれ?やあ、これはひどい。なんでケガしたの?」
「わかりません。ぼくが見つけたときにはもうケガをしていたから」
「見つけた?……やあ、あなたはコチラの人ですね?」
先生はそのとき、はじめてぼくがいることに気付いたみたいに声を上げた。
コチラってなんだろう?同じ町内ってことかな?
「はい、かむの団地に住んでる藤川芳一です。引っ越してきたばっかりです」
「やあ、これは。じゃあなんですか?あなたが彼をここまで連れてきたんですか?へえ、それは、それは」
先生があんまり興味深そうにこちらの顔をしげしげと見るんでドギマギしてしまう。こっちはなにも悪いことをしているつもりはないぞ。
「いや、今はそんなことより、こちらさんを早く処置してあげないとね」
先生はトカゲに目をやりなおすと白衣のポケットから虫メガネを取り出し、傷をよく見た。
「うーん、これはちょっとひどいなあ。こりゃもう縫ってあげたほうがいいでしょうね。おーい、ヨシノさん、麻酔の用意。……うん、コオリムカデのツバがいい。シビレゾウのヨダレだと強すぎるし、彼にはヒンヤリしたもののほうがいいでしょう。糸はそうね、ユキハキグモの糸がまだ少しあったから、あれでいこう。うん、中ぐらいの細さのものでいい。お願いします」
ヨシノさんっていうのはさっきの看護士の女の人で、てきぱき冷凍庫から薬瓶(くすりびん)を取り出す。
先生はそのいかにも冷たそうな液体(ドライアイスみたいなけむりがモクモク出ている)を注射器に注入した。
トカゲは注射器を見ると、シッポから✕の形の炎を出してはげしく振った。
「……なんかイヤがってるみたいですけど」
「生意気を言うんじゃない。ケガを治したいから、この少年の手を借りてここまで来たのだろう?きみも心を決めて観念するんだ」
先生はトカゲにまるで人間の、それももういい年をした大人かのように言い聞かせた。するとトカゲの方もあきらめたように眼を閉じた。
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