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アチラのお医者さんと光るトカゲ5
「よしよし」
先生が注射をすると、刺された時は一瞬ビクッとしたけど、そのあとはねむるみたいに静かになった。
「暴れられると面倒だから、全身麻酔にさせてもらいましたよ。さあ、今からちょっとこまかい作業をしないといけないから、あなたには待合室で待ってもらっていていいかな?」
そう言われたので、ぐったりしたトカゲを置いてぼくは部屋を出た。
待合室には、次の患者さんだろうか、さっきはいなかったおじいさんが椅子に座っていた。
作務衣を着ているが体は枯れ木のように細く、肌がカサカサしていて仙人みたいなヒゲを生やしていた。なんだか朝鮮人参みたいだった。
おじいさんは人なつっこい感じで、となりのぼくに話しかけてきた。
「なんだね、きみはコチラのお人のようだが、のんのん先生のお知り合いかね?」
またコチラって、同じことばかり言われる。いったいなんなんだろう?
「……あのすいません、のんのんって誰ですか?」
「いま会っただろう?黄色い髪をしたお医者さんだよ」
のんのん?そうか表札に「野々村(ののむら)」ってあったからそれで「のんのん先生」か。
「先生の知り合いでもないコチラの人間がここにやってくるなんてめずらしいね。まさか自分の病気をあの先生に診てもらいに来たわけではあるまい?」
おじいさんは笑うように言った。
ぼくはウソをついても仕方ないので、素直に言うことにした。
「ええっと……ただぼくはハネのあるトカゲに連れてこられただけです。道で会ったんです」
トカゲという言葉に、一瞬、おじいさんの目が光ったように思った。まるでネコかなにかのケモノみたいな気がした。
「ほお、ハネのあるトカゲ。……じゃあ、なんだね?きみはアチラモノにふれることができるのかね?」
「アチラモノ」ってなんだ?さっきの先生といいこのおじいさんといい、言ってることがわかんないんだよなあ。
「それはめずらしい。……じゃあトカゲは今ここにいるのか?」
ドアのむこうの診察室をじっと見つめるその目は、やっぱりなんだかネコっぽい。
「おじいさんはここに何をしに来たんですか?飼ってるペットが病気なんですか?」
「ペット?……いやいや違うよ。ちょっと関節の具合が悪くてね。わたしはのんのん先生のところに長くかかりつけてるから診てもらいに来たのさ。ただの年のせいだとは思うんだが」
袖をめくって見せてくれたその腕はまるで本当の木の枝のようで、カサカサと節くれだっていたのでぼくはびっくりした。
思わず「いったいそれ……」と声を上げようとしたとき
「藤川さーん。処置が終わりましたので、なかにどうぞ」
ヨシノという看護士さんに呼ばれたので、それ以上のことを聞くことはできなかった。
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