アチラのお医者さんと光るトカゲ7

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アチラのお医者さんと光るトカゲ7

「なんでぼくが……」 「さて……これは推察ですが、あなたは元々いくぶんかはアチラモノとふれあうことのできる資質がおありだったのでしょう。そこに今回、このハネツキギンイロトカゲ君が命の危険を感じて必死になって助けを呼んだ。その必死の思いがたまたま近くを通ったあなたの能力を開発したのかもしれません」 「そんなことあるんでしょうか?」 「さあ、わかりませんがあるかもしれませんよ。なにせ彼らはアチラモノですから」  先生は笑って言った。 「なんでこの子はこの場所を知っていたんですか?」 「ああ、そりゃ大抵のアチラモノはこの診療所のことは知っています。コチラでなにかあった場合、たよれるのはここぐらいですからね。彼はコチラに出てきたばかりのようですが、それでも知っていたんですね。  ……それにしてもおかしいですね。このハネツキギンイロトカゲという種類はアチラでも奥のほうに住んでいて、めったにコチラに出てくることはないんですが。いったいなにをしにでてきたのでしょう?」  そんなこと、ぼくに聞かれたってわかるわけがない。 「ここはいったいなんなんですか?」 「ですから、診療所です。わたしはアチラモノを専門に診る『医者』です。野々村鏡太郎(きょうたろう)といいます」 「目下のところ命に別状はありませんが、数日間はこちらで預かりましょう。入院です。よろしいですか?」 「よろしいですかと言われても、ぼくはこの子に連れられてきただけですから」  トカゲはもうだいぶん麻酔がとけたらしく、目をさまして目玉をグリグリ動かしている。ぼくを見ると心うれしげにシッポを振るのがかわいらしい。  先生は後ろの本棚から古そうな本を取り出すと、読みながら言った。 「このギンイロトカゲの種類は基本的には月の光を浴びていれば食事をせずとも生きていけます。しかし好奇心が強くてなんでも口に入れたがる……おい、きみ。ちょっとの間は絶食だぞ。わたしがいいというまで、なにも口にしてはなりません。よいですね?」  真剣な顔をしてトカゲに説教をする人を初めて見たのでおかしかった。 「今日はこの個室で寝ていただきましょう」  そう言って棚の引き出しを開けると箱を取り出し、そのなかにトカゲを移した。 7c828f51-34f4-49c4-b0d7-c991e950b6ff 「ちゃんと人工月光を当てておきますね。氷月石(ひょうげつせき)の粉を下に敷いてありますから、寝心地はよいと思いますよ」  そしてぼくに 「さあ、あなたはもうそろそろ家に帰ったほうがいいでしょう。外もだいぶんと暗くなってきました。彼のことが気になるのでしたら、またあしたいらっしゃい。診察は昼からですが、わたしは朝十時ごろにはもうここにいますから」  トカゲのことも気になったし、先生にもまだ聞きたいことがいっぱいあったけど、ぼくは言われた通り診察室を出た。
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