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アチラのお医者さんと光るトカゲ8
待合室にはさっきのおじいさんがいるかと思ったけど、もういなかった。
「あれ、ハクオウじいさんが来てたんじゃなかった?」
後ろからのぞいた先生がヨシノさんに聞いた。
「さっきまでいらっしゃったんですけど、用事を思い出したとかでお帰りになられました」
「だいじょうぶかなあ、なにせあのじいさんも年だから。……まあいい、またこちらから往診しましょう。さあ、藤川さんでしたか、あなたもおウチにもどらないと。かむの団地でしたね。ひとりで帰ることができますか?」
「はい、できます。……それより、おカネのことなんですけど……ぼく持ってなくて……」
先生は一瞬キョトンとした顔をしたあと「はっはっは」とわらって言った。
「あなたはそんなことを気になさらずとも大丈夫ですよ。診察料は心配せずともあのトカゲくんが払ってくれます」
トカゲがどうやって?と思ったけど、もうぼくはくわしくは聞かなかった。わけのわからないことばかりでアタマがパニックだ。
ぼくは自転車に乗って自分の家に帰った。
そのすぐ後に、お母さんが仕事から帰ってきたけど、ぼくは知らない人の家(というか診療所)に行ったことは黙っていた。お母さんはゲンジツ的なヒトだから、ハネのある光るトカゲと会ったとか言ったら、ウソをつくなと怒られるか、頭がヘンになったと病院に連れていかれるかどっちかだと思ったんだ。
第一、弟(ぼくにとってのおじさん)が経営しているスーパーに勤めだしたばかりで、慣れない仕事に毎日疲れて帰ってくるお母さんに余計なことは言えなかった。
そのスーパーのお惣菜を電子レンジでチンしたおかずがならぶ夕食で、ぼくは図書館に行ってきたということだけ伝えた。
その夜は興奮して、なかなか寝付けなかった。
だいぶしてやっと眠れたけど、その日の夢は金髪ののんのん先生が大きなトカゲにのってぼくを追い回し、そのそばであの作務衣すがたのおじいさんとヨシノさんが笑っているというもので、朝、汗でびっしょりになって起きた。
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