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アチラのお医者さんと妖刀つかい4
「医者?――まさか、あなたが伝説のアチラモノの医者なんですか?」
ちょっと、おどろいているようだ。
「伝説ということはないですが、まあそうです」
「なんで、そんな方があたしに用なんですか?」
少女のてきぱきとした口ぶりに、先生はわざとゆったりとこたえた。
「……ええ、同級生にサカイモノらしき子がいるとホウイチくんからうかがいましてね。
それはめずらしいと思いまして……いやなに、ホウイチくんには今、わたしの助手のようなことをしてもらっているのですよ」
坂上さんは、ぼくを見なおしたように
「へえ。あなた、アチラの医者の助手だったのね。すごいわね」
すごいって言われた。……けっこううれしい。 そんなぼくらのやりとりのあいだに、先生はスッと言葉をさしこんだ。
「――聞くところでは、あなたは刀でチバシリオオメダマを切ったそうですね」
「チバシリ……?ああ『ビッグ・アイ』のことを、このあたりではそう呼ぶんですか?
――ええ、切りましたけど、それに何か問題が?
あれはアチラモノといっても、人工の使い魔です。それともなんでしょう?アチラのお医者さまとしては、そんなモノであっても傷つけるような行為はゆるせないということですか?」
坂上さんの理路整然とした不服だてに、先生は
「……ゆるせないということはありません。ただ、どういうことかと思いまして。
実は、ここ数日かむののアチラモノに刀らしきもので切りつける事件が多発しています。証言によると、そのもののすがたはショート・カットの少女だそうです」
坂上さんは、日本人ばなれした整った顔を先生にまっすぐ向けると
「――仮に、それがあたしだとしたら……どうすると?」
挑戦的に言った。
先生は、あごをかいて
「うーん、むずかしいですね。『ひかえてほしい』というのが本音ですね。わたしとしては仕事が増えますし、またこの件でかむののアチラモノの動きが活発になっています。このままでは、コチラに対してもどんな影響が出るかわかりません」
少女は話を聞くとしばらくだまっていたが、口を開くと
「――残念ですけど『あたしが切っていない』と言うことはできません。そして、それを止める保証もできません」
どういうこと、それ?
「切ってないと言えない」って……切ってるってことじゃないの?
先生は興味ぶかげに少女を見つめると、たずねた。
「……あなたは、アチラモノがきらいなんですか?」
「キライです。この世からいなくなればいいと思っています」
きっぱりとした表情で言うものだから、ジェームスがまたこわがってぼくの首のうしろにかくれた。
「うーん」
先生もそれ以上なにも言えず、話ははっきりしないまま終わった。(坂上さんは、ベリーのパフェをのこさずきれいに食べた)
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