アチラのお医者さんとその師匠1の10

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アチラのお医者さんとその師匠1の10

「それに、なにせ彼は気まぐれですからね。じっとあなたについてまわるのは苦手でしょう」  それはそうだね。  なにせ、すぐいなくなっちゃうから「脱兎」って名前にしたんだもの。 「だからまあ、彼についてもらうのはやめました。それで、あなたの警護をどうしようかと……」  先生のことばに、ジェームスがくるくると飛びまわる。  自分がいるから大丈夫というアピールらしい。  ありがとう、きみは気の良いトカゲだよ。    のんのん先生は、ぼくの首にからむジェームスをじっと見ると 「……そうですね」  椅子に背もたれると、ちょっと解説してくれた。 「――むかしから、運が良い人間のことを『肩(かた)がいい』と言います。良きモノが肩につく、という考え方から来たことばです。『ツイてる』ということばの由来でもあります。あなたの肩にはいつもジェームスくんがついていますから、それで十分守られているといえるかもしれません」  へえ、そうなんだ!ジェームス、やっぱりきみはすばらしいんだね!  世界一たよりになるトカゲだよ!  ……って、あれ?そういや「おまえはかたがいい」って、だれかにも言われたな。そのときは意味がわかんなかったけど……  そうだ、あのピンク鹿に乗ってた女の子!テルコヒメとか言ってたな。 「――ああ。あなた、あの姫にも会ったんでしたね。どうでした?まぶしくなかったですか?」  そうだね、ちょっとまぶしかった。ぼくとおんなじぐらいの年なのに、すごく威厳があったよ。 82850f6b-80ac-44e3-82c2-027b9846593f 「そりゃそうでしょうね、まあ神ですから。……そうですか、こどもの姿でしたか?わたしが会ったときは、まぶしいだけでどんな形(なり)かまでは、わかりませんでした。やはり、あなたのほうがよく見えてますね」  あの子、神さまなの?いや、そりゃそうだろうなとは思ったけどね。ハクオウじいさんとかにも比べても、尊(とうと)げなムードがありすぎたもん。 「先生に加護を与えてるんでしょ?そう言ってたよ」  ぼくの問いには 「――まあ、そういうことになるんですかね?なにせ、わたしもあの方々には滅多に会わないんで、よくわかりませんが……。  医者といったところで、この街のほんとうの上のほう……神界がどう動いてるかなんて、よく知りません。将来的には、あなたのほうが詳しくなるでしょう……そうなったら、あなたに教えてもらわないといけない」  わらいながら言った。 「これを返しに来たんです」  思い出しついでに、預かっていた水晶の首飾りを出すと 「ああ。それはあなたが持っておいてください。そのほうがいい気がします……そうですね。あなたには、見張りというか見守り役をつけるぐらいでいいでしょう。だれかに頼みます……」  だれだろう。たのしみだな。 「それより!先生こそ気をつけてよ。また流されたりしちゃだめだよ。下に行くの、たいへんだったんだから!」  ぼくが言うと 「――ええ、ありがとう。気をつけます」  ほほえんだ。
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