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アチラのお医者さんとその師匠2の5
話を変えたいから、あたりを見わたしなおすと……うーん、マヨイガの調子が悪いからか、設(しつら)えは豪華なのに、どうにも雰囲気が暗いな。
照明がほとんどついてないうえに、空気もしめっぽい埃で濁って、どんよりとしている。 置かれた家具とかも、ほこりをかぶってくたびれているように見える。
前にのんのん先生といっしょにこのマヨイガの中に入ったときは、あのソファや椅子などの家具におそわれたもんだけど、今回はそんなことない。みんなじっとしておとなしい。
おそわれたときはおそろしかったけど、じっとして元気なさげなのも、なんだかさびしいな。家具に元気がない、ってのもヘンな言いぐさだけど。
「居候がいるのは、こっちです」
いつのまにか火のともった燭台を持った式神が誘うのは、妙にムードたっぷりの木製扉だ。開けると、暗い石組みの階段が下につながっている。
「……地下室?」
けっこう急な階段をいっしょに下りていくと、空気のひんやりが強くなってきたよ。外はけっこう暑いのに。
うーん、まるで吸血鬼が出そうなおどろおどろしさだよ。
ぼくのつぶやきに、お師匠さんが
「ふうん。おまえは吸血鬼に会ったことがあるのか?」
「いえ、ありませんけど……吸血鬼って、ほんとにいるの?」
たずねかえすと、わらって
「そりゃおるとも。人間の血を実際に吸ったり喰らったりする『鬼』みたいなのを入れると、かなり広い」
鬼ね……彼らには、なんべんか会ってる。たしかに食べられそうになった。
「人間をかじるなんてのは、ただの癖(くせ)で、吸血鬼にとって本質的な問題ではない。アチラモノにとって、コチラの物質を取ることなど意味がないからな。吸血鬼が摂取するのは人間の生気のみだ」
「せいき……『マナ』ってやつ?」
そのことばは、のんのん先生から聞いたよ。
「おお、知っているか?吸血鬼にも、人間の幽鬼が転じたものや自然霊由来など種々(くさぐさ)あるが、人間の生気吸引(エナジー・ドレイン)こそがやつらの本質よ。実に興味深い」
目を光らせる。好奇心旺盛な研究者の目つきだな。
弟子とずいぶんタイプがちがう。のんのん先生は、目の前の患者さんが良くなったらそれでよくって、研究はそのためにしぶしぶやってる、って感じだ。
「……いくら興味ぶかくとも、ぼくはお近づきになりたくないよ」
つぶやくと、前を行く式神が
「ご安心を。吸血鬼はいません」
言ってくれたけど、雰囲気はまるっきり陰気でコウモリとかがいそう……と思ったら
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