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アチラのお医者さんとその師匠3の21
そのことばに、一瞬呆けた伽羅は、顔をみにくく歪めて
「なにを!!このクソ尼が!!自分が拾った男に、たらされおって!」
口汚くさけぶと、つづけて
「――わかっているぞ!おまえが俺を破門したのは、なにも俺が不始末したからではない!その男を俺に取られると思ったからだ!この気位ばかり高い煩悩女(ぼんのうおんな)め!
なにが尊き『活き薬師』だ!色に迷って、愛(う)い男の側女(そばめ)に成り下がるとは!こんな無能男に貴重な知識を継承するなど、医者としての責任放棄だ!」
ひどいののしりようだ。
それに対して、ヨシノさん(びくに?)はなにも口を開かなかったが
「……兄(あに)さん。師匠に対して言葉が過ぎます」
のんのん先生はだまっていない。ちょっと怒っている。
「それと『彼女』に対しても失礼な口を叩かないでいただきたい。ヨシノさんは、うちの大事なスタッフです」
「だまれ、この無能者が!おまえごときに俺の相手がつとまるものか?」
さけぶ兄弟子に、
弟弟子は平然と
「……無能でも、長くやっていればそれなりのことができるようになるものですよ」
「なにを!……うっ?なんだ、これは!?」
いつの間にか、伽羅のまわりにおなじみの「封」「縛」入りのテープが張り巡らされている。
のんのん先生は沈んだ表情で
「……すでに、この一帯には防疫網を張り巡らせています。あなたから病気が広がらないようにしないといけませんからね」
「病気?いったいなにを言っている?」
とまどう彼(?)に
「えっ!?キャラさん?その腕……?」
声をかけたのは、ぼくだ。
いつの間にか金髪の麗人の腕が、まるで溶けるようにくずれてきている。
「……兄(あに)さん。なんの防護もせず、あの香料を扱いつづけたのは悪手(あくしゅ)でしたね。いくらあなたでも、それだけ被曝しては免疫が落ちてしまいます。ムラガリチスイコウモリと同じウイルスに感染しましたね」
「ばかな。あのウイルスはアチラモノにしか伝染しな……」
とまどう兄弟子に、
弟弟子はため息をついて
「やはり、そこは認識できないように師匠が設定していましたか。
――伽羅、あなたは人間ではありません。師匠……八百比丘尼がつくった式神……アチラモノです」
えっ!?
「なんだと、ばかをいえ!俺がアチラモノなわけ無いだろう!俺は人間だ!」
叫ぶ兄弟子に
「それでは、そもそもあなたの性別はなんですか?」
問うと
「それは……俺は男……いや女……?」
戸惑った。
そこ、ふつうはあんまり戸惑うところじゃないでしょ?
「どちらでもあるといえるし、どちらでもないとも言えます。あなたは、師匠がさまざまな人体部位をより合わせて作った、特別な式神です」
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