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「うちにいつも無理難題な注文をしてくる客がいるんです。なんとかしてこないようにしてほしいんです。一月で刀を五本用意しろって。うちも限界なんです」
「その客の手がかりは?」
「顔に黒子があって、見た感じは人当たりのよさそうな人。この近くの……えっと、君津家の人だと聞きました」
次郎は顎に手を当てて言った。
「分かった。では、七日後の同じ時刻、ここにくるといい」
次郎が去っていくのを見送り、霊斬はその場から姿を消した。
霊斬はその足で、君津家へ向かった。
君津家は江戸の中で四番目に権力を持つ家だ。加え、規模も大きい。
屋敷はそれに相応しいくらいの贅を尽くした造りになっていた。
――無駄なところに金かけやがって。
霊斬は内心で溜息を吐く。
そのまま、屋敷に侵入し、屋根裏へ向かう。
入り込むと、聞こえてくる会話を聞きながら、目的の男を捜した。
「現在、いくつかの鍛冶屋に一月以内に刀を五本ほど依頼しております」
と声が聞こえてきたため、霊斬は足を止めた。声からして、歳は三十ほどか。
「さて、どれくらいの鍛冶屋が、五本揃えて持ってくるのだろうな?」
楽しみだと言わんばかりの、別の声が聞こえる。
――そんなに刀を集めて、なにをしようっていうんだ。
霊斬は思案しながらも、天井の板をずらし、そうっと顔を覗かせる。
次郎の言うとおり、黒子のある男がいた。対するは老年の男。だが、人懐こそうな印象は見受けられなかった。
少し話すと、男は一礼し、その場から去った。
霊斬は様子を見ると天井の板を戻し、君津家を後にした。
翌日の昼間、霊斬はそばを啜っていた。
霊斬が難しい顔をしているので、常連客らはひそひそと話をしていた。
「なんであんな怖い顔して、そば啜ってんだよ」
「そんなもん、知るかよ」
「仕事、上手くいってねぇのかな?」
「憶測でものを言うな、馬鹿!」
「大人が、なにこそこそ話しているんですか」
千砂は呆れたように突っ込んだ。
「だ、だってよぉ、なんだか怖いじゃねぇか」
「それもあって、聞きにくいし。なあ?」
と言うと常連客三人がうなずく。
「幻鷲さん、どうしてそんなに難しい顔を? 皆さん、怖がってますよ」
千砂は溜息を吐いて、霊斬に声をかけた。
「ちょっと、千砂ちゃん!」
「なにをしているの!?」
「あ~あ、怒られる……」
三人はそれぞれに言葉を発した。
その声が聞こえた、霊斬が振り向く。
「ん? 悪い。考え事をしていただけだぞ」
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