第五章 ただ働き

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「うちにいつも無理難題な注文をしてくる客がいるんです。なんとかしてこないようにしてほしいんです。一月で刀を五本用意しろって。うちも限界なんです」 「その客の手がかりは?」 「顔に黒子があって、見た感じは人当たりのよさそうな人。この近くの……えっと、君津(きみづ)家の人だと聞きました」  次郎は顎に手を当てて言った。 「分かった。では、七日後の同じ時刻、ここにくるといい」  次郎が去っていくのを見送り、霊斬はその場から姿を消した。  霊斬はその足で、君津家へ向かった。  君津家は江戸の中で四番目に権力を持つ家だ。加え、規模も大きい。  屋敷はそれに相応(ふさわ)しいくらいの贅を尽くした造りになっていた。  ――無駄なところに金かけやがって。  霊斬は内心で溜息を吐く。  そのまま、屋敷に侵入し、屋根裏へ向かう。  入り込むと、聞こえてくる会話を聞きながら、目的の男を捜した。 「現在、いくつかの鍛冶屋に一月以内に刀を五本ほど依頼しております」  と声が聞こえてきたため、霊斬は足を止めた。声からして、歳は三十ほどか。 「さて、どれくらいの鍛冶屋が、五本揃えて持ってくるのだろうな?」  楽しみだと言わんばかりの、別の声が聞こえる。  ――そんなに刀を集めて、なにをしようっていうんだ。  霊斬は思案しながらも、天井の板をずらし、そうっと顔を覗かせる。  次郎の言うとおり、黒子のある男がいた。対するは老年の男。だが、人懐こそうな印象は見受けられなかった。  少し話すと、男は一礼し、その場から去った。  霊斬は様子を見ると天井の板を戻し、君津家を後にした。  翌日の昼間、霊斬はそばを啜っていた。  霊斬が難しい顔をしているので、常連客らはひそひそと話をしていた。 「なんであんな怖い顔して、そば啜ってんだよ」 「そんなもん、知るかよ」 「仕事、上手くいってねぇのかな?」 「憶測でものを言うな、馬鹿!」 「大人が、なにこそこそ話しているんですか」  千砂は呆れたように突っ込んだ。 「だ、だってよぉ、なんだか怖いじゃねぇか」 「それもあって、聞きにくいし。なあ?」  と言うと常連客三人がうなずく。 「幻鷲さん、どうしてそんなに難しい顔を? 皆さん、怖がってますよ」  千砂は溜息を吐いて、霊斬に声をかけた。 「ちょっと、千砂ちゃん!」 「なにをしているの!?」 「あ~あ、怒られる……」  三人はそれぞれに言葉を発した。  その声が聞こえた、霊斬が振り向く。 「ん? 悪い。考え事をしていただけだぞ」
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