終章 明かされる過去

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「陸奥!」  重五郎は自分を主とする武家の名を呼んだ。  襖を挟んだ向こう側から声がする。 「いかがなされました?」 「今から言うことすべてに、はいと答えろ!」  重五郎は骸を前に叫んだ。 「は」  呼ばれた陸奥は、なにを言っているんだと思いながらも、指示に従った。 「刃傷沙汰が起きた。陸奥家の者の手にかかってしまったと、わしは奉行所に伝える」 「お待ちください。話が……」 「口答えするな!」  すかさず重五郎の声が飛ぶ。 「……はい」 「分かったら、もう用はない。去れ」 「はい」  陸奥はその言葉を最後に、その場を後にした。 「なんのつもりだ?」  霊斬は冷ややかな声で尋ねた。 「この家で刃傷沙汰など、あってはならない。それだけじゃ」 「その決断で、不幸が起こらぬことを、祈っててやるよ」  霊斬は冷ややかな声で言い、屋敷を後にした。 「俺は忠告を無視して、賊と武士を殺めた。後悔はない」  霊斬は淡々とした口調で、話を続けた。 「それでも、俺の心に空いた穴は埋まらなかった。それをあえて埋めないまま、生きてきた。その必要もなかったんでな」 「……そうだったのかい」  千砂は言いながら、酒を一口飲んだ。  ――哀しかっただろう、辛かっただろう、苦しかっただろう。けれど、それを決して口にしない。一番傷ついたのは霊斬なのに、誰かに頼りたいときだってあるだろうに、決して頼らない。そんな彼のそばにいたかった。心の傷は癒せないかもしれない。けれど、寄り添いたかった。誰よりも強くて、誰よりも孤独で。誰よりも怒り、誰よりも哀しんで、誰よりも苦しんでいる霊斬に。  千砂はそう思った。 「よくもまあ、そんなんで今まで生きてこれたねぇ」  霊斬が苦笑する。 「俺もそう思う。いろんな奴らから、恨みは買っているだろうな」 「さらっと怖いことを言うんじゃないよ」  千砂にようやく笑顔が戻る。 「話してくれてありがとうね。あたしはこれで」  千砂が立ち上がった途端、体勢を崩す。それを慌てて支えた霊斬は、思わず申し出た。 「送っていく」 「悪いねぇ。だいぶ呑んじまったようだね」  千砂が霊斬に支えられたまま苦笑する。  格子から外を見れば、空に月が浮かんでいた。 「そのようだ」  霊斬は千砂を座らせると、部屋を出る。
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