第四章 呉服屋の悲哀

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第四章 呉服屋の悲哀

 それから一か月後、霊斬はいつものように刀を作っていた。 「ごめんください!」  という声がしたので、霊斬は手を止めて表に向かう。 「なんの用でございますか?」  霊斬が言いながら戸を開けると、一人の女が立っていた。 「失礼ですが、幻鷲様で間違いございませんでしょうか?」 「はい」 「折り入った話があるのです」  霊斬は女を奥の部屋へ通した。  女にお茶を出し、正座をして霊斬は問いかけた。 「折り入った話とは?」 「ここにくれば、〝因縁引受人〟に会えると聞きました。あなたがそのお方ですか?」 「はい」  女は少し驚いた表情をした後、顔を引き締めると話し始めた。 「(わたくし)は呉服屋の娘でございます。あなた様に修理の依頼をさせていただきたく、参りました。それから……ある武家に対しての憎しみが消えません」 「なぜ、憎んでいるのですか?」  霊斬が静かな声で尋ねる。 「……実の親を、殺されたからです」  そう言う女の声は氷のように冷たかった。 「その武家の名は、ご存知ですか?」 「西日(にしび)家です。当主の()()()(ろう)」  女は憎しみのこもった双眸を向けて言った。 「分かりました。では、人を殺めぬこの私に頼んで、二度と後悔なさいませんか?」 「はい。それでは、これを」  女は懐刀を床に置いた。 「どうか、あの家を壊してくださいまし」 「承知いたしました。では、一週間後、またお越しください」  霊斬が頭を下げると、女は店を去った。  霊斬は預かった懐刀の刀身に目を走らせる。  鞘とこすれた(きず)さえも少なかった。  ――ほとんど使われていない。  そう思いつつも、霊斬は目の細かい砥石で研ぎ始めた。  それから修理を終えると、床に寝転んで今回の依頼について考えていた。  ――女からの依頼は初めてだな。  霊斬は身体を起こし、草履を履いて店を出た。
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