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振り返ったハヤトは泣き出しそうに顔を歪めて、私に向かってくる。
「チヒロ!何だよこれ!」
グイッと私へ差し出したそれは、優しい黄色の封筒だ。これはいつものように吉田先輩へのラブレターじゃなくて、宛先は【ハヤトへ】と書いてある。
「ハヤト、今まで気付かなくてごめんね。」
小さな黒髪に合わせるようにしゃがんで、黒い瞳を真っ直ぐに見て話す。怯えるように震えた肩に、そっと手を伸ばして触れられないそれを優しく撫でる。
「私、ハヤトのこと思い出したの。そして、ハヤトのお母さんから色々聞いたんだ。」
昨日の夜のことを思い出して、また泣きそうになった。
「私のバイト先に、よくチョコのお菓子を買いに来てくれたよね。」
「…うん、」
「あの頃バイトを始めたばかりであんまり周りのこと見えてなくて、ハヤトのこともすぐに思い出せなかった。」
「そっか…、」
「でもね、また来てほしいって思うお客さんの一人だった。いつも丁寧に商品を受け取ってくれて、ありがとうございましたって言うと小さく頭を下げてくれた。」
「…、」
「昨日、私を慕ってあのコンビニに来てくれた事をお母さんに聞いたよ。」
見つめた黒い瞳が、大きく見開く。その瞳からは今にも涙が溢れ落ちそうで、私は小さなハヤトをぎゅっと抱きしめた。
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