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温度のない背中に、少しでも私の熱が伝わればいいと願い腕を回す。空気とハヤトに感触の違いはないけれど、確かに私はハヤトを包んだ。
私の肩に、ハヤトはおでこをそっと乗せる。そして、視界の端で動いた細い腕は私の背中にゆっくり回った。すり抜けてしまわないように、優しく乗せられた手に目の前がボヤける。
「…俺、あの日、チヒロが声かけてくれて嬉しかった。もう絶対に話せないと思ってた。それなのに、チヒロは俺を見てくれた。」
「うん…、」
「チヒロがアイツにラブレターを渡そうとするのは凄く嫌だった。」
「うんっ…、」
「でも、ラブレターを取ったらチヒロはいつも俺を追いかけてくれて、ちょっと嬉しかったんだ。」
「…うんっ、」
必死に涙を堪えて、小さなハヤトに気付かれてしまわないように呼吸を整えて口を開く。
「私、ハヤトのこと忘れないよ。絶対に、忘れない。」
背中に回した腕に力を込めてもう一度抱きしめた後、そっと黒髪を撫でてキラキラと光る黒い瞳を真っ直ぐ見た。
「私を好きになってくれて、ありがとう!」
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