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振り向いた幼さが残る顔は、やはり不機嫌で何故か睨まれる。ちょっと、怒りたいのは私の方だ!
「なんで、いつもいつも私のラブレター盗むの!!」
キッと睨んで言えば、ハヤトはムッと眉を寄せて下を向く。
「チヒロのバーカ!」
「なっ!このクソガキ!!」
またもベーッと舌を出して私から逃げようとするハヤトを急いで捕まえようとするも、スルッと私の手をすり抜けてしまう。
待て!と追いかければ淡い桃色の封筒を右手でぶらぶらと揺らして、私を挑発してくる小さな黒髪にフツフツと怒りが溜まる。
「ハヤトいい加減にして!その手紙返してよ!」
「やだね!絶対返さない!!」
「なんでこんな事するの!成仏できない理由があるならちゃんと聞くから言ってよ!!」
言うことを聞いてくれないハヤトに思わずそう叫べば、逃げていた足はピタッと止まって私へ向く。
放課後の屋上は緩く風が吹いて、前髪が視界を妨げる。瞬きをした瞬間に目の前の小さな黒髪が消えてしまうんじゃないかというような不安を覚えた。
「チヒロになんか絶対に言わない。」
そう小さな声で言ったハヤトは、悲しげにその場に佇んでいて思わずその黒髪に手を伸ばす。
空気に溶けてしまいそうな小さな頭を優しく撫でても、何の感触もなかった。傾き始めた太陽が私の影を作っても、ハヤトの影は作ってくれなくて。
目の前の存在がユウレイであることを、強く証明していた。
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