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「早川さん、顔色悪いよ?体調平気?」
パチッと私と目が合った吉田先輩は、眉を八の字にして心配そうに聞いてくる。そんな先輩の表情は初めて見たので、自分がそんなに顔色が悪いのか心配になった。
「だ、大丈夫です!ちょっとぼーっとしちゃって…」
苦し紛れにそう告げるも、吉田先輩は「体調が悪いならバイト休みなよ、」と店内を出る最後まで言ってくれた。
そんな吉田先輩の背中を見届けながら、深く息を吐く。
なんで、今まで気付かなかったんだろう…
グッと目に力を入れて、溢れそうになるそれを留める。本当に私は酷い奴だ。
不意に見た時計はバイトの終了時刻を指していて、店内をいまだに徘徊し続けるお婆さんのユウレイをそのままにバックヤードへと駆け出した。
「はぁっ、はぁっ、」
ビニール袋をガサガサと鳴らしながら、もうすっかり秋になった空気を吐き出す。夏に比べて、暗くなるのが随分早くなった帰り道をひたすらに走った。
暗くなったアスファルトを照らす、電柱の下。黄色い花束が以前よりも増えているように感じる。お供えされた、赤いパッケージのチョコのお菓子。
外灯にぼんやりと照らされたそこで、長く、長く手を合わせる女の人の影。
唇を噛み締めてそっと近付けば、その人はゆっくりと顔を上げた。綺麗な黒髪が秋風に靡く。
「私も、手を合わせていいですか?」
今にも消えてしまいそうなその人に、ビニール袋から取り出したチョコのお菓子を渡す。思いのほか震えてしまった声で告げれば、あの子に似た黒い瞳を歪めて真っ直ぐに私と向き合ってくれた。
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