はじまり

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はじまり

朝の慌ただしいホーム。 『扉が閉まりまーす…ご注意下さい』 プルルルルル… 朝の満員電車の女性専用車両を考えた人を尊敬する。 今日も私は男の人達を避けるために女性専用車両に乗って通勤。 「おはよう。」 「あ…五十嵐くん…おはよう。」 会社の最寄りの駅の改札を出たところで、同じ部署で同僚の五十嵐くんが声をかけてきた。 「今日も女性専用車両?」 「そうだよ。」 「男に慣れないと恋愛できないよ?」 「慣れるとか、一生無理だね。」 「男って意識しなければ良いじゃん。」 「それができるなら苦労しないよ。」 「意識してないヤツもいるでしょ?」 「うーん。いないかな…笑」 「何でそんなに男がダメなの?」 「何でだろ?生理的に受付けないから仕方ないよ。」 「もしかして…。」 「違う!」 「否定すんの早!笑」 「その質問ずっと聞かれてるから。」 「俺が、男に慣れるように…。」 「ストップ!」 「それ以上近づかないで…。」 「はぁ〜わかったよ。」 五十嵐くんと一定の距離を置いて会社まで一緒に通勤。これが私の精一杯の努力だ。 「明日から新しいソフトがパソコンに入るから、各自使い方がわかるようにしといてね〜」 課長からのお達しが、私を朝から憂鬱にさせた。 「はぁ〜。何で新しいソフトとか搭載するのよ。ちっともわかんない…」 「えーりーかーちゃん!教えてあげよっか?」 「うん。お願いします。」 私のブースに椅子を持って、嬉しそうに五十嵐くんが来た。私のパーソナルスペースが一気に狭くなる。 「どれがわかんないの?」 「ここ…。」 「これは…ちょっなに?」 「近いよ…」 「俺の腕が短いので…この距離じゃないとマウスに手が届かないんです!わかった?」 「わかった…。」 「つかさ…そんなに離れてて画面見えるの?」 「見えない…。」 「少し我慢しなよ。」 「だって…鳥肌が…。」 「うそ?鳥肌立つとか言われたの初めてなんですけど…かなりショックだわ…。」 「ごめん…。」 「待ってて…わかる女の子呼んでくるから。」 「うん…ありがと。」 結局、使い方のわかる女性社員に教えてもらった。 (こりゃ…反省会だな…) 家に帰り、一人反省会。 「今日もダメだった。五十嵐くんに申し訳ないことしたな。」 ジリリリリリリ (ん?五十嵐くんだ。) 「もしもし?」 「もしもし。俺。」 「どうしたの?」 「相談があって…。」 「ん?何?」 「俺さ…えりかちゃんのこと…好きだわ。」 「は?ん?なに?いきなり。だって…私…」 「わかってる。だから考えたんだ。電話だったら、触れることも無いし、 近づくことも無いから。電話だけの関係っていうのは…どう?」 「どう?って…。」 「毎日、電話で話すだけ。会社では仕事以外の話はしなくて良いから。あ、あと…必要以上に近づかないから。」 「話すだけ?」 「うん。」 「それなら…できるかも…。」 「じゃあ、それでやってみよ?」 「うん。」 五十嵐くんからの提案で…不思議な関係が始まった。
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