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最寄り駅に着くまであと十五分。 この調子でいけば、家に着くのは二十二時を回りそうだった。 水島さんと別れたときは家に帰ってからやるべきことで頭がいっぱいだったのに、電車に揺られ始めてから体が重くなってきている。 眠気の波もだんだんと押し寄せてきて、思った以上に今日一日の疲れが出始めていた。 これからケーキを作らなくちゃいけないのに、このままでは何も手につかなそうだ。 とにかく今ここで意識を手放すことがないように必死になっていると、それを手助けするかのように握っていたスマホが振動した。 まさに助けられたのは、これが結城くんからの連絡だったから。 沈みだした体が少し浮上する。 『お疲れ様。もう家?』 『まだ電車の中。二十二時頃になりそう』 『そうか、気をつけてな』 自然と顔がほころんで、周りに人がいることを一瞬忘れていた。 きっと誰も気にしていないだろうけど、座席に軽く座り直し姿勢を正すことでなかったことにした。 『明日のことなんだけどさ。佐々木疲れてるだろ?』 改めて見たスマホの画面には、私を気遣ってくれている結城くんの言葉が続いていた。 『そんなことないよ!』 『いやでも、こんな時間だし。俺は、おめでとうの一言だけでも十分嬉しいんだけど』 なんだか雲行きが怪しい気がした。 もしかしたら結城くんは明日の約束も白紙にしてしまうつもりなのかもしれない。 それは私の体調を心配してのことだろう。 でもそれだけは絶対に嫌だと思わず声が出そうになったとき。 『でもやっぱり会いたいから。待ち合わせ、午後からにするのはどうだろう?』 ドクンと大きく脈打った心臓のおかげで声は引っこんだ。 今度こそ周りから怪訝な目を向けられるところだった。 でもとっさに顔半分を覆った手の下では、頬の緩みは止まらない。 直接目を見て言われるときもそうだけど、こうやって文字としていつまでも視界に映り続けるこの破壊力も相当なものだ。 ずっと心臓に刺さって痛いくらいなのに、こんなにも嬉しい。 今すぐにでも会いたいな、と思ってしまうあたり、もうかなりの重症だ。 ただ心はそうであってもなんとか落ち着いて考えてみると、これから明日にかけて体を酷使することになるのは否めない。 一緒に楽しみたいのだ。あとになって体調が万全ではなかったなんて思い出を残したくはないから。 『一日かけてお祝いするつもりだったのに、ごめんね』 『いいんだって!ほとんど俺のわがままだろ。こんなに明日が楽しみなことなかったよ』 『私も楽しみ。会いたいです』 それまでテンポ良く返ってきていた返事が、急に静まりかえった。 そして画面を見てハッとする。 色々とダダ漏れの状態で、つい勢い余って送ってしまったメッセージ。 ここまでストレートに感情を言葉にしたことは、きっと今までになかった。 だからこそ返事を待つこの時間が、私を少しずつ冷静にさせた。 浮かれすぎただろうか、引かれただろうか、何か困らせただろうか。 このままではまずいとうまい言い訳を考え始めると、やっとスマホが震えた。 『うん、それじゃあ、場所は喫茶つばきにしようか。遅めの昼食とってから出かけるということで』 返事が来たことに対してはホッとした。ただ内容はどこか引っかかる。 渾身の会いたいが流されてしまっている・・・? 何を期待したでもないけど、なんだかとても寂しい。 わかったと一言返せば、今度は準備をしていたみたいに早い返事だった。 『じゃあ、今日は早く休んで』 そのメッセージとともに、スタンプが連続で送られてくる。 最近話題らしい猫のデフォルメされた可愛らしいキャラクターがたくさんの表情を見せている。 そして一緒に並んだ「楽しみ」や「ありがとう」といった中に紛れた、「好き」の二文字。 もうこの二文字から目が離せない。顔が焼けてしまいそうなくらい熱くなった。
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