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「ここでいいのかな」
一時間ほど前に結城くんから「昼はここで落ち合おう」というメッセージが届いた。
一緒に送られてきた地図を頼りに外に出たわけだが、その地図が示す場所は見る限り普通の民家のようで。
でも一応、看板に書いてある名前は合ってるし、いいんだよね?
静かにドアノブを引くと、コーヒーの良い香りが鼻をかすめた。
「佐々木、こっち!迷わなかったか?」
「うん、大丈夫だった」
結城くんの姿を見つけたら何だかホッとして、彼のいるカウンター席に行くと、カウンターの中で黒いエプロンをつけた白髪交じりの男性が微笑んでいた。
「いらっしゃいませ。どうぞ」
「あ、はい」
促されるまま結城くんの隣に座って、自然と店内のあちこちへと視線が動いてしまう。
「素敵なお店・・・」
「ありがとうございます」
「偶然見つけたお店なんだけどさ、マスターの入れるコーヒーが美味しいんだ」
お客さんが十人も入れないような小さなお店で、私たちの他には男性が一人だけ、食事を済ませて新聞を広げているだけだった。
「会社の奴らにも教えてない穴場だから、出来れば佐々木も内緒にしてくれると助かる」
「え、じゃあ、私も来ない方が良かったんじゃ」
「何言ってんの、佐々木は特別」
光が差したみたいな笑顔にドキッと胸が鳴る。
「いつか連れてきたいなと思ってたんだ。今日社食でもよかったんだけど、朝あんなことしちゃったからさすがに目立つかなと思って。ここなら落ち着いて話もできるし、佐々木コーヒー好きだろ」
「う、うん」
もうすでに、結城くんの顔は直視できない。
「それに、マスターの作るナポリタンは絶品だから食べて欲しくて。お昼、それでいい?」
「うん、いいよ」
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