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「それマジでやめて」
そう言った結城くんは、普段あまり見たことがない目を細めて苦そうな顔をしている。
「なんで?本当のことでしょ。みんな言ってるし」
「周りが勝手に言ってるだけだから」
「またまたご謙遜を。何でもスマートにこなしちゃうからさ、いつもすごいなって感心してるんだから。そりゃモテるわけですよ」
「そんなことない」
「あ、嘘ついた。私何度か告白の現場に遭遇してるんだからね」
「え、マジで」
「マジマジ。で?今付き合ってる子はどの子?」
「その言い方、まるで俺が会社の子とっかえひっかえしてるみたいじゃん」
「これだけモテてるんだから、彼女の一人や二人いるでしょ?」
「彼女二人もいたらダメだろ!ってか、そもそも付き合ってる子なんかいない。社内に彼女いたこともない」
今度は一転、焦るように私の言葉を否定してくる。私は少し驚いていた。
結城くんはこんなにコロコロと表情が変わる人だったかな。
会えば世間話くらいすることはあったけれど、いつも穏やかに笑っている印象が強く、なんだか少し新鮮に感じていた。
「えー、本当かなぁ。だって断るときに『好きな人がいる』的なこと言ってなかった?」
「・・・聞いてたのか」
「聞こえてきちゃったんだから仕方ないでしょ。まぁ、断るときの常套句よね」
「佐々木は?」
「え?」
「佐々木はどうなんだよ。別れたんだろ、彼氏と。新しい出会いとか、どうなの?」
話が思いの外はずんだせいで、油断した。
今はまだ、できるだけ避けて通りたい話題だった。
でも結城くんには散々突っこんだ質問をしておいて、私は答えたくないとか、そんなこと言えるわけがない。
「あるわけないじゃん。一人でいるほうがずっと楽だってことに気付いたからね。恋愛はしばらくいいかな。なんか、疲れちゃって」
「そりゃあ一人が楽なのはわかるけど、寂しくない?」
何の涙かわからないけれど、無性に泣きたくなってしまい必死でこらえる。
なんだ、まだ全然ダメだ。
もう平気なような気がしていたけれど、胸はぎゅっと締めつけられる。
「残業ばっかりしてるのも、家に帰ったって何もすることがないからだろ。仕事していれば気が紛れるから、だからこんな遅くまで」
「もう何なの!そんなことわざわざ言いにきたの?バカな女だって笑いにきた?そんなの自分が一番よくわかってるから、もうほっといてよ」
「麻美」
「え?」
「絶対、もう絶対寂しい思いなんてさせないから。これからの時間を俺にください」
「・・・へ?」
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