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ナポリタン二つ、と声をかけると、マスターはすぐに材料を手に取り始めた。
結城くんが前を見たタイミングでチラッとその横顔を見ようとしたら、思いの外早く視線が戻ってきて、結城くんと目が合ってしまった。
火がついたみたいに顔に熱が集中するのがわかる。
私は慌てて前を向いて、姿勢を正した。
「それで、朝の話って何だったの」
「えっと・・・この間は本当にごめん」
ふと隣を見ると、結城くんはまたこちらに向かって頭を下げていた。
「えぇ、だから何の話?私、結城くんに謝られるようなことされたっけ?」
「この間の金曜日のことだよ」
「あれはもういいって言ったじゃん。休みの間もずっと謝ってくれてたし」
「でも、やっぱりちゃんと直接謝らなきゃと思って。ホント最低だよ、俺。本来なら俺が送って行かなくちゃいけないのに何一つ覚えてないし、挙げ句に部屋まで掃除してもらって。救いようのないバカだ、俺は」
もしかしたら土日の間、ずっとこうやって頭を抱えていたのだろうかと思ったらおかしくて、思わず吹きだしてしまった。
「なんで笑うんだよ」
「だって、仕事でもそんな落ち込んでるところ見たことないから珍しくて。か・・・」
「か?」
いや、何を言おうとしてるんだ私!
「そ、それに、掃除っていっても少し片づけただけだから。もう気にしないでよ」
「いやそれだよ!泥酔して醜態晒したのも最悪だけど、俺にとってはそっちのほうが重大っていうか・・・」
結城くんが言わんとしていることがわからず、ついジッと彼を見つめていた。
なんか今日の結城くん、暗くなったり焦ったり、新鮮だなぁ。
「廊下がゴミ置き場になってたこと?それとも、洗濯物の山がたくさんできてたこと?」
「あぁ~、頼むから忘れてくれ~」
耐えきれなくなったのか、結城くんはテーブルに顔を伏せてしまった。
「自分でもヤバイ自覚はあったんだよ。いろいろ後回しにしてたら、気付いたらあんな状態になってて・・・だから土日で片づけしようと思ってたのに。その前に佐々木が来るからさ~」
「だって、あれは不可抗力です。あんな酔っぱらい放っておけないよ。道端に捨てられるよりは全然マシでしょ」
「はい、おっしゃる通りで」
しおらしく反省の色を見せる結城くんに、また笑いが零れた。
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