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まだ浮かない顔をして何か言いたそうにしているから、どうしたの?と聞くと、少し間があってやっと結城くんの口が開いた。
「幻滅しただろ?」
「え?」
「いつも完璧王子とか言われて騒がれてる奴が、部屋があんなことになってるなんて。正直、引くよな」
「なんで?」
「え、だって・・・」
「さすがに入ったときは驚いたけど。逆に、あんなになるまで仕事に追われてたってことでしょ?私だって掃除得意ってわけじゃないし、何もやりたくない日だってあるよ」
苦手の域を超えているような気がしたことは、黙っておくことにした。
「仕事が忙しいなら、尚更そうだろうし。だからむしろ、私はちょっと安心したかな。結城くんも人間だったんだな~って」
「なんだそれ」
「完璧な人間はいないってこと!意外な一面が見られてちょっと得した気分?」
そう言って笑ってみせると結城くんはまた、なんだよそれ、と言いながらつられるように笑った。
それまでの暗かった雰囲気が少し明るくなったようだった。
「それにしたって、女の子に送らせるのは感心しないな~」
目の前に手が伸びてきて、白い皿に盛りつけられたナポリタンがやってきた。
湯気と共に立ちのぼるトマトの香りが、鼻をくすぐる。
「もしかして、あなたがあの佐々木さん?」
すっかり目の前のナポリタンに釘付けで、うっかり流してしまいそうになったけれど、はたと気付いた。
あれ?私名乗ったかな?結城くんが呼んでるのを聞いてればわかるか。
じゃあ、「あの」佐々木さんとは?
その意味を尋ねる前に、すかさず結城くんが間に入ってきた。
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