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「昨日、ちゃんと帰れたか?何もなかった?」 「え、あ、うん。大丈夫だった」 「そっか、良かった。佐々木が勢いよく飛び出していったから、俺もすぐに追いかけていったんだけどさ。足速すぎだろ、全然追いつけなかった」 不自然にぎこちなくなってしまう私とは違い、結城くんはいつも通りに笑っていた。 無我夢中で走っていたから考えもしなかったけど、まさか追いかけてきてくれていたなんて。 しかしそれがどうしてなのか考えるよりも先に、気になってしまったのは。 なんか結城くん普通だ。私が変に気にしすぎてるのかな。呼び方も戻ってる。 あまりに結城くんの態度が変わらず、昨日の出来事が夢だったのではないかとも思い始めていたが、それもすぐにかき消される。 「これから遅くなるときは、俺が送っていくから。連絡してくれれば迎えに行くよ」 「え、いや、大丈夫だよ。遅いっていっても、仕事帰りに飲んで帰ったりしたら普通にあのくらいの時間になるし」 「飲んだ帰りなんて、なおさら危ないだろ。今までどうしてたんだ?」 「普通に電車で・・・」 「まさか一人なんて言わないよな」 「そうだよ、同じ路線の友達いないし」 「ダメだ、これからは一人で帰るなんて絶対ダメだからな」 「あ、はい・・・」 気迫のこもった顔のまま連絡先を聞かれて、私は素直にスマホを取り出すしかなかった。 無事に連絡先の交換を終えて、自分のスマホに登録された新しい名前を見た。 結城くんって、下の名前は真人っていうんだ。 仕事が出来て、格好良くて、優しくて。 社内でも有名人な彼を知らない人はおそらくいないだろう。 しかし部署が違えば交流はほとんどなくて、話をするようになったきっかけは、今同じ部署の同期が前に結城くんと一緒に仕事をしていたからだ。 たしか二人でいるときに、結城くんがその子に話しかけにきたんだよね。 その頃から結城くんの噂はちらほら聞こえてきていたけれど、実は同い年で同期だったってことを知ったのはその時だった。 昨日まで、話はするけどフルネームすら知らない仲だったはずなのに。 なんでこんな「帰り道は送る」なんて話になっているんだろうか。 不思議でならないし、とんだ急展開に私の頭は昨日から全くついていけていない。
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