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「ところで」 一呼吸おいても何だか聞きづらそうにしながら、結城くんは質問を投げかけてきた。 「仕事帰りに飲み会とか、よく行くの?」 「飲み会っていうか、たまに友達に誘われて行くくらいだよ」 「その友達って・・・」 「中学からの友達。今でも唯一連絡取り合ってる子」 「・・・男?」 「いや、女だけど」 「そ、そっか」 私の一言で、明らかに結城くんの体から力が抜けたのがわかった。 その理由として結城くんがこんなことを考えているはずがないとわかっていながら、私の口は止まらなかった。 余計な考えから、まるで逃げるかのように。 「何、友達少ないとか思った?」 「違う違う。ってか、俺も学生時代から未だに連絡取ってるの一人くらいだし、似たようなもんだよ」 「そうなんだ、なんか意外かも。いつも周り囲まれてるイメージだから、友達も多くて、休みの日なんかみんなでワイワイ遊んでるのかと」 「たしかに会社ではよく色んな人に声かけられるけど、でも普段は全くそんなことないよ。むしろ部屋で静かに過ごしてることの方が多いかも。だからさ・・・」 「ん?」 「良かったら、今度、飲みに行きませんか」 なんで敬語?という疑問は呑み込んだ。 こちらの反応を窺っている何とも言えない表情が面白かった。 それに胸が何だかむずがゆくなって、彼を見ていられなくなってしまったけれど、返事は自然とこぼれていた。 「別にいいけど」 「本当?やった!美味い店結構知ってるから、連れて行きたいなって思ってたんだ」 「そうなの?でも、結城くんが声かけたら、一緒に行ってくれる子なんてたくさんいるんじゃないの」 ただ単純に思ったことを口にしただけだった。 普段のモテっぷりを見ているだけに、どれだけ順番待ちをしても一緒に出かけたいと思う女の子は、きっと山ほどいるはずで。 それなのに、結城くんはなんで私なんかを誘ってくれるんだろう。 そんな私の考えを見透かそうとしているのか真っ直ぐに見つめてくる結城くんは、一瞬その瞳が揺れたような気がしたけれど、やがていつもの穏やかな笑顔を浮かべた。 「佐々木以外の子と一緒に行きたいなんて、一度も思ったことない。俺が、佐々木と一緒に行きたいって思ったんだ」 本当に不思議でならない。 限界を超えたのか、どこか他人事のような気さえしている。 しかし、少しずつ胸のむずがゆさが増してきているのは確かだった。
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