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定時まであと三十分。
終わりの時間を気にすることなくパソコンと向かい合っていた頃もあったけれど、それも今は昔。
今となっては、三十分前から徐々に机の上を片づけ始め、時間になるとほぼ同時にフロアを出ていくくらいに、残業とは無縁の変化を遂げていた。
それもこれも、全ては結城くんに散々色んなところを連れ回されたおかげだった。
さすがに毎日ではないにしても、最低で週に二回は何かしらの約束を取りつけられて、よく仕事後に連れ出されていた。
仕事終わりで行ける範囲というと限られてくるけれど、それでもこんなことがなければ自分一人では絶対に行かないようなところもあったりして。
初めは多少強引にこられて断れずに仕方なくついて行くだけだったのが、いつの間にかその時間を楽しめるようになっていたのだ。
そして、約束がある日はもちろんだが、約束がない日も「もしかしたらこれから声をかけられるかもしれない」と、ずっとソワソワしてしまう始末。
今日もその、約束がない日だった。
あと十五分、そういえば今日はまだ一度も姿見てないな。
チラチラと時計を確認しながら、社内にいるはずの彼の姿を思い浮かべた。
仕事の出来る結城くんを周りはかなり頼りにしていて、自分の担当でもないのに手を貸しているところをたまに見たことがある。
ただでさえかなりの仕事量を抱えているというのに、それに加えて周りのフォローだなんて大抵の人間は無理だと口をそろえて言うだろう。
しかしそれをやってのけてしまうのが結城くんで、ちゃんと結果が出るからまた何かあれば周りは彼を頼る。
その繰り返しがきっと彼の日常で、社内にいるはずでも姿すら見えないということは、また誰かの仕事を手伝っているのかなと考えているうちに定時になっていた。
スーパーに寄って買い物してから帰ろう。夕飯何が良いかな。
綺麗に片付いた自分のデスクから離れてフロアを出ると、何やら楽しげな声が響いていた。
「本当にありがとうございました」
「とりあえず、期日に間に合って良かった」
「結城さんのおかげですよー。一時はどうなることかと思いましたけど、助かりました。さすが結城さん!」
「完璧王子がいれば、百人力ですね」
「いやいや、みんなで頑張ったからだよ」
廊下の角を曲がったところで、結城くんが女性社員三人に囲まれて立ち話をしているところだった。
それを見て反射的に曲がった角を戻ってしまい、立ち聞きする気もなかったけれど、そこを動けなくなってしまった。
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