最後の手紙

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最後の手紙

もう限界だ。 なんでこんな男と付き合ってるんだろう。 いつの間にか帰ってきていていつの間にか隣に眠っていた男の寝顔にそんな事を思う。 傍らにある携帯電話の画面には『楽しかった』『大好き』など明らかに浮気を匂わせるハートマーク満載のメッセージが表示されている。盗み見た訳ではない、勝手に送られてきたものをたまたま見てしまっただけだ。 (また浮気したんだ) 付き合い始めて二年。 いつから浮気が始まったのかはわからない。気が付けば着ている服からは洗剤の匂いが漂っているし、髪の毛からは男が使うとは思えないフローラルな香りがする。 明らかに女の家かホテルに寄ってきた証拠だ。 そのくせ家にきたらきたで離れたがらず、寝る時も抱き締めて離さないのだから不思議だ。 飽きられてはいないのだろう。 別れたいとも、きっと思っていない。 本命なのだと実感はしている。 でも必ずここに帰ってくるからと言って浮気を許した覚えはない。むしろ浮気する奴は許せない。 だから…… 「出来た」 あいつに宛てて手紙を書く事にした。 浮気をするな。 する奴に興味はない。 浮気するくらいなら飽きたんだろう。 『本命』の彼女とお幸せに。 もう二度と会わない。 そんな事を長々と綴った手紙だ。 (好きだったんだけどなあ……) 告白はこちらからだった。 明るく物怖じしない性格が魅力的で、見ているだけでは満足出来ずに声を掛けた。 告白を受け入れてくれた時は泣きたいくらいに嬉しくて……というか、泣いた。 恥も外聞もなく、子供みたいにぼろぼろと涙を流した。 (……鍵も返してもらったし、悪いとは思ったけど携帯の中身も消した) 朝が来たら、いつものように仕事に行く後ろ姿を見送る。 浮気になんて気付かないフリをして笑顔を振りまいて、荷物の整理をしよう。 あちこちに散乱している脱ぎ散らかした下着も予備で置いてあるスーツも専用のタオルも歯ブラシもペアで買ったマグカップも茶碗も箸も何もかも捨ててしまおう。 鞄を開けたらすぐに見つかる所に手紙を忍ばせてある。 職場に着いてすぐにそれを読む事になるだろう。それでこの関係は終わりだ。 「……おやすみ」 これが二人の最後の夜。 穏やかに眠るその額に唇を落とし、隣でそっと目を瞑った。 終わり
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