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ステーキを食べる男
ああ。
肉が焼ける音というのはどうしてこうも甘美な音楽を奏でるのだろう。
熱した鉄板に牛脂を薄っすら敷いたその上にでっぷりと肉厚な肉が乗る。
私の耳は今、快楽の絶頂にいるのだ。
耳で肉を頬張っているといってもいい。
赤身の肉の底面から徐々に火が通り焼き色が付いていく。
肉の厚みの三分の一ほど火が通ってきたらトングを使いゆっくりとひっくり返す。
その間肉の焼けた香りがふわりと私の鼻孔をくすぐる。
耳の次は鼻。
トングで持ち上げた肉の裏面を慎重に鉄板の上に乗せる。
そこで、また耳を刺激される。
そう。私は今肉にもてあそばれ、じらされている。
これが私の口内に入ると思うと唾液腺が刺激され唾が大量にあふれ出てくる。
肉の裏面も徐々に色付き、同じく三分の一程まで焼き色が付く。
さあ。もういいだろう。
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