怪盗mとの攻防

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怪盗mとの攻防

 雲ひとつない満月の夜。月明かりに導かれ、黒い影が暗闇のなか怪しくうごめく。  今宵もまた、哀れなイケメン達のパンツを狙い、怪盗mが夜空を舞う。目指す先は、イケメン四兄弟の住まう城。狙うべきお宝は、イケメン四兄弟のパンツ4枚!  怪盗mは不敵な笑みを浮かべ、無事目的地のビルに到着した。屋上から、中の様子をうかがう。  二階の窓からほんわかした湯気が漏れていて、誰かが風呂に入っていることがわかる。状況を察した怪盗mは、静かにビルの中へと侵入した。 「ちーくーん!  俺のパンツ、無事ー?」 「何回も確認すんなよ、無事だー」  ここは二階の居住区にある風呂場。風呂に入っている末っ子・カオルと、カオルが脱いだパンツを脱衣所で護衛する体育会系の次男・チハル。  眼鏡男子の三男・アサギとアラサー男子の長男・ジュンは、一階の事務所にある金庫に洗濯済のパンツをしまい、怪盗mに盗られないよう厳重に警護していた。  鉄壁のパンツ包囲網である。    しかし相手は百戦錬磨の怪盗。今まで盗めなかったパンツはないと言われている強者だ。パンツを護衛しているジュンやアサギ、チハルにも緊張が走る。  そして、時が来た。 「にゃーん♪」  風呂場の脱衣所に怪しげな格好をしたクロネコが現れ、猫なで声で鳴いている。頭にはウサミミカチューシャ、目には鼻眼鏡、体にはピンクのクマ柄パンツを被った、どうみても怪しいクロネコだ。  そんな怪しい猫に相対するのは、動物大好き次男のチハル。案の定、なんの疑いもせず赤ちゃん言葉でクロネコに話しかけている。  予想通りのチハルの行動に、怪しげな格好をしたクロネコ・怪盗mも思わずにんまりし、勝利の手応えを感じていた。  にゃーん、ごろにゃーん  ごろごろと喉をならしながら体育会系の次男・チハルにすりより、油断を誘う怪盗m。隙をついて、末っ子・カオルの脱ぎたてパンツを盗もうという算段である。 「ねー、ちーくん!  さっきからなんか、変な音してなーい?」    声と同時に、風呂場の扉が勢いよく開いた。ふわっと湯気が辺りに広がり、お湯の臭いが鼻をつく。怪盗mが声の主へと目をやると、そこにはーー  お湯も滴る全裸のカオルが立っていた。 「ぎゃっほう!」  思わぬハプニングについ、飛び上がって人語で叫んでしまう怪盗m。めざとい末っ子・カオルは、その違和感を見逃さない。 「ちーくん、そのへんてこな格好をした猫、なに!? スッゴい怪しいんだけど!」  末っ子・カオルの冷静なツッコミに対し、思う存分猫を撫でくり回してご満悦な次男のチハルは、つやつやした顔できっぱりと言いきった。 「安心しろ、ただのにゃんこだ!」  しかし全裸の末っ子・カオルには、そんな苦しい言い訳は通じるはずもなく。 「ただのにゃんこは、こんな怪しい格好してないし、ぎゃっほう!なんて叫ばないからー!」  末っ子・カオルの魂の叫びを聞いたその瞬間、危機を感じた怪盗mは軽やかに身を翻し、脱衣所から颯爽と逃げ出した。カオルの脱いだ、カラフルな水玉模様のボクサーパンツを口にくわえて。 「あっ、それ俺のパンツー!!」  末っ子・カオルの叫びが脱衣所内に空しく響くなか、慌ててチハルが怪盗mの後を追う。「俺に任せろ!」という、頼もしい言葉をカオルに残して。  怪盗mの後を追い、走り去っていった兄の背中に望みを託した末っ子のカオルは、なすすべもなくあっさりとパンツをとられたことにショックを受け、その場でへなへなと座り込んだ。 「大丈夫。ちーくんならきっと、俺のパンツを取り戻してくれるはず……!」  一縷の望みをかけ、末っ子・カオルは祈った。  「あとは頼んだよ、ちーくん!」
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