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ーーその頃、チハルはというと。
兄のメンツにかけて、弟のパンツは意地でも取り戻すという、強い決意をもって怪盗mの後を追っていた。
運動神経には自信があるチハルは、全速力で怪盗mの後を追うが、なかなかその距離は縮まらない。
「くそっ、あと数メートルが埋まらねえ!」
あわや怪盗mを取り逃がすかと思われた次男・チハルだったが、そうは問屋が卸さない!
現在追いかけっこをしているこの居住区エリア、普段自宅として使用しているチハルの方に地の利がある。それをいかしてなんとか部屋の角に怪盗mを追い込むことに成功した、動物好きな次男・チハル。
怪盗mを捕まえた暁には、めいいっぱいモフってやろうと邪な考えを抱きつつ、じりじりと部屋の角へと追い詰めていく。
な、なーん……
心細そうに甘く鳴く怪盗mに、一瞬心がきゅんとし、うっかり隙を作ってしまった、猫も大好き・次男のチハル!
そしてその隙を怪盗mが見逃すはずもなく。にやけたチハルの顔を踏み台にし、華麗に部屋の角から脱出した。
「いってえ!」
いきなり顔面を踏み台にされたチハルは、床にあおむけに倒れたまま、体の痛みに軽くうめいた。
そして、下半身の違和感に気づく。
「俺の、パンツがねえ!」
そう、これもまた怪盗mのなせる技。チハルが倒れる瞬間を狙って、彼がはいていた赤色のボクサーパンツを華麗に盗み出していたのだ。
その事実に気づいたチハルは、床に転がったまま、腹を抱えて笑い出した。
怪盗という名は伊達じゃないーー
運動神経には自信があったチハルは、その実力を目の前でまざまざと見せつけられ、手も足も出せないままにパンツを奪われたかと思うと、笑わずにはいられなかった。
ひとしきり笑ったあと、天井を見上げ床に大の字に寝転びながら、チハルはポツリとつぶやいた。
「……アニキ、敵は思った以上にやるやつだぜ、気を付けろよな……」
自ら敗北を認めた次男・チハルは、怪盗m捕獲の望みを、一階店舗にある金庫番をしている二人へと託したのだった。
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