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赤い髪の女 2
王宮の中庭まで来ると、大きな葉の影に白い衣が見えた。
「ジョウッ!」
「どうした?そんなに慌てて」
「ちょっと来てくれ」
薬草を摘みながらのんびりと手を振るジョウに駆け寄り、袖を引っ張った。
「どうした?血相を変えて」
「……王様を診てほしい」
****
「王様、医官のジョウを連れて参りました)
「ヨウ? 王様はどこかお加減が悪いのか」
俺の耳元で、そっとジョウが不審そうに囁く。
「あぁ……だがまだ内密にしてくれ。お前にだけ診てもらいたい。いいか」
「分かった。では人払いを」
王様の寝所にはジョウと俺と王様の3人しかいない。
「足なんだ。早く王様の足を診てくれ」
「分かった」
ジョウも俺の顔色の悪さから状況を察し、緊張した面持ちで王様の前に膝をつく。
「王様、暫し御御足をお見せいただけますか」
「ジョウ来てくれたのか……うん、ここなんだ。ほら」
王様は素直に足を差し出す。
まだ少年の細い足。そのか細い足の大腿部の腫れがさっきより増して痛々しい。
ジョウは顔をしかめながら、その部位を触診した。
「あっ……これは……」
「どうしたの?」
「いや……王様大丈夫ですよ。これは何か悪いものに刺されたのですよ。少し冷やしましょう。今処置の準備をしてきますから暫くお待ちください。ヨウ手伝ってくれるか」
「ああ……」
足早に医局へ移動するジョウを、慌てて追いかける。
「待てよ。一体どうした?そんなに悪いのか」
ジョウを王宮の長い廊下の柱の陰に引き寄せ、誰もいないことを確認してから恐る恐る聞いた。
「……その通りだ。あまりいい話ではない」
「くそっ……やはり、そうか」
「まだよく診てみないと確かなことは言えないが、私は以前同じような症状の患者を診たことがある」
「それでっ!その患者はどうなった?」
「……あっという間に、半年も経たぬうちに亡くなったんだ」
「えっ」
ガチャン──
俺は思わず右手に握り締めていた剣を落としてしまった。
「それでは駄目だ! 王様はまだ12歳だ! もっともっと生きなくてはいけないんだ」
俺としたことがかなり動揺しているようで、剣を拾おうとした手が震えていた。
「お願いだ……助けてあげて欲しい」
幼い無邪気な笑顔の王様の顔が脳裏にちらつく。王様は清らかで汚れていない。まだ早い。汚れきった俺ならまだしも……駄目だ。まだ駄目だ。
気が付かないうちに目には涙が潤み出し手がブルブルと震え、落とした剣を拾えずにいる俺を、ジョウがぎゅっと力を込めて抱きしめてくれた。
「ヨウ……大丈夫か。少し落ち着け。方法を考えよう。絶対に何かあるはずだ!」
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