赤い髪の女 3

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赤い髪の女 3

「一体どうしたらいいのだ!」  弟のように大切な王様を失うかもしれないという恐怖で躰までも、大きくガタガタと震えだす。 「ヨウ、落ち着くんだ」  取り乱す俺をジョウは柱にドンと押さえつけ、強引に口づけしてきた。 「はうっ」  俺の肩はまだカタカタと小さく震えていたが、ジョウの温かい息遣いと唇の柔らかさを直に感じると、心の冷静さが戻って来た。  だが……冷静になればここが王宮内だということを思い出し、慌ててジョウの胸を押し離れようともがいた。 「ジョウ!こんな所では駄目だ! 誰かに見られたらどうする?」 「ヨウ、落ち着いたか」 「あっああ、すまぬ」  確かに震えは止まった。 「取り乱してはいけない。ヨウがしっかりしないといけないんだ」 「そうだな……すまなかった」 「とりあえず王様には虫の毒だということにしよう」 「分かった」 「少し調べたいことがあるから、今宵医局にきてくれるか」 「行くよ」 「それじゃヨウは護衛に戻れ、いつも通りにしろ、誰にも悟られるな」 「分かった」 ****  何とか冷静さを取り戻し王の元へ戻ると、すぐに呼ばれた。王様は無邪気に聞いてくる。 「ヨウ!ねぇジョウの診立ては?」  ふぅと息を吐き、出来る限り冷静に平静を装い回答した。 「どうやら悪い虫の仕業のようです。少し毒を持っているらしいので、あとで処置をしましょう。お薬も塗りましょう」 「あぁ良かった。何か悪い病気かと思ったよ。ヨウ、心配した?僕のこと」 「もちろんでございます」  王様は小さな子供のようなあどけない笑顔を浮かべ、俺を手招きする。 「ヨウ、ここに座って、ねぇ甘えてもいい?」  恐れ多いことと分かっているが、横に座り王様の肩をそっと支えて差し上げる。 「どうされました?」 「僕には母上も父上ももういないから、寂しいんだ。こういう時はとても……そうだ、内官に聞いたらヨウも一緒なんだって?」 「はい……もう誰もおりません。二人とも病死しました」 「じゃあヨウは怖い夢を見た時はどうしているの?」 「えっ」 「一人は寂しかったろう」 「ええ……まぁ」 「一人で泣いたことはある?」 「……そんなことしません。武将ですから、耐えるのみです」 「本当にそうなの?」  無邪気な質問にドキリとする。 「今も……今も一人で耐えているの?」 「……」  今は違う。ジョウがすぐ傍にいてくれる。心が乱れそうになると、いつもジョウが俺を温めてくれる。 「……ヨウ?」  王様が愛嬌のある澄んだ眼でじっと顔をみつめてくる。 「なんでしょうか。王様」 「あのね……最近……ヨウが僕のお兄様にだったらいいのになぁって思うんだ」 「王様そんな滅相もないことをおっしゃってはなりません」 「ここだけだから、兄弟だったら寂しい時に慰めあえるだろう?ヨウにだって寂しくて泣きたいときがあるはずだから……」 「王様……」  その言葉を受けた途端、鼻の奥がツンとし涙がじわっと込み上げてきた。  その涙が零れ落ちないように必死に堪えた。こんな胸が詰まるような感情はいつぶりだろう。
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