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赤い髪の女 5
「ジョウ……手紙って何だ?」
「あぁ……実はな。とにかく、この手紙を見てくれ」
「ん?」
ジョウが差し出した書物には、『地方医学報告書』と書かれていた。
「これが何か」
「この中に不思議なことが書かれているのが、どうも気になって……」
──
ジョウ医官殿
緊急報告がございます。
昨夜雷と共に一人の女がいきなり此の地へやってきました。見慣れぬ異国の服を着た赤い髪の若い女でした。妖しいものだと通報があり捕らえて役所へ連れてきたのですが、その取り調べの最中一人の役人が高熱で倒れたのです。
あまりの高熱で医官の見立てでも手遅れだということで、もう助からぬと思って放置していたのに、その女が持っていた見慣れぬ白い小さな薬を飲ませると数時間で嘘のように熱が引き、患者はあっという間に快復したのです。その女は助かるはずがない患者を治療しました。
赤い髪の女の施す医術は我が王国のものではないようです。異国の全く想像を超える発想のもとに治療を施していると思えます。
あまりに妖しきことのため、取り急ぎ報告をした次第。
王の医官殿、至急確認、願いたい。
──
「ジョウ、この女は何者だ?我が王国の医術ではないものを扱うのか。ならば……王様のご病気も治せるかも?」
「落ち着いて。まだはっきりとは分からないよ」
「だが王様を助けられる可能性が少しでもあるのなら」
少し希望の光を見出したように、ヨウは俯いていた顔をあげた。そして私の後に立ち、そっと背中から手を回して体重を預けてきたので、その冷たい手を握ってやった。
「ヨウの手がまた冷たくなっているな」
「……会ってみたい。この女に」
「あぁそうだな。一度確かめてくる必要があるな」
「ヨウ……君は今、王様の傍を離れてはいけない。王様がご病気であることは決して悟られてはいけない。特に次の王座を狙うあの一族には、知られないように最新の注意を図ってくれ」
「あぁ分かっている、一緒に行けないのがもどかしいし、ジョウのことが心配だ。賊に襲われたりしないだろうか。俺の近衛隊から腕の立つものを警護でつけさせてくれ」
「ありがとう。何もなければ君と旅に出たいよ。二人きりで……」
「俺もお前と二人きりに早くなりたい。王宮は人の眼が多すぎる」
そう言いながらヨウは窓の外を覗き、人の気配がないことを確認すると、そっと寄り添って来た。
「誰もいないか」
「あぁ」
「少しでいい。不安で躰が冷たく震えるから……少しだけ」
私にだけ見せるヨウの弱い面、弱い姿。寂しげな表情。
開いてくれた心と躰、しっかりと受け止めてやりたい。
「ヨウ奥へおいで」
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