時が満ちれば 1

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時が満ちれば 1

 暁を告げる鶏が空に向かって甲高く鳴くのを聞いて、俺は勢いよく寝台から飛び起きた。昨夜久しぶりに秘技である雷光を使ったからか、少し躰が気怠い。  遠い彼方の君は、いい夢を見られたか。  君が今逢えない人に、無事に逢えたのならいいが……  何かの解決に繋がればいい。  雷光……  こんな能力を持って生まれたことは、周りには知られないようにひた隠しにしている。まだジョウにすら話してない。このことが知れ渡ると、国や権力に無理矢理力を貸さなくてはいけなくなる可能性があるから、危険だと認識している。  自分で雷を作れる不思議な力を持っていることを、亡くなった師匠に話せた時は、ずっと使い道が分からず悩んでいたので安堵した。師匠は驚き、震えながらこう言った。 「まさか伝説の雷光の持ち主が現れるとは!」 「伝説の?俺のこの力がですか」 「いいか、よく聞くんだ。ヨウ……その雷光は決して人に見せてはいけない。だがその雷光は遠い昔からの言い伝えによると、逢いたい人と逢いたい人を結びつけることが出来る力があるそうだ。本当に使わなくてはいけない時、その時が来たら自然と分かるはず。その時は躊躇わずに使いなさい」  昨日使ったことは間違いではないと、師匠の言葉と共に、改めて確信した。  ただ……君を助けたかった── ****  予定通りならジョウが昼頃には帰ってくる。  待ち遠しいものだな。離れてちょうど1週間だ。1週間会わないだけで、我慢出来ない程に苦しかった。前王により飼い慣らされたこの躰は正直だ。自分が嫌になる。それでもジョウはそれを理解してくれていて、いつだって俺を満たしてくれる。だからジョウがいない日々……独り寝る夜は長く辛かった。 **** 「さぁ王宮までは、あともう少しです」 「もう馬に乗るのは飽きたわ~だいたいねぇ私の世界では乗馬は日常的ではないわ。非現実な世界になんで私いるんだろ。あ~もう帰りたい。どうやったら帰れるのかしら。ねーどうしたら帰れるの?」  旅の間中ブツブツと文句を言っているが、なんだか憎めない愛らしい女性だ。肩の下で軽やかに揺れる赤い巻き毛が、馬上でぽんぽんと可愛らしく弾んでいる。朝日を浴びると、透き通るような白い肌が一層白く引き立ち、意思の強そうな真っすぐな黒い眼が生き生きと輝いている。  本当に見れば見るほど美人な女性だ。もしもヨウを知らなかったら心惹かれてもおかしくないのだろうか。だが……私の眼にはこんなにも美しい女性より、ヨウの方がずっと綺麗に見える。ヨウに早く会いたい。今宵は抱きたい。きっと寂しい夜を過ごしたに違いないから。 「ねぇジョウ、この国の人って、みんな貴方みたいに背も高くてカッコいいの?」 「えっ?」  あどけない笑みを浮かべ覗き込まれると、ストレートにそう言われると、流石の私も少し照れてしまい、慌てて話を逸らした。 「ほら王宮が見えて来ましたよ」 「本当? あー疲れた!まさかに三日も馬に乗るとは……着替えたいしお風呂も入りたいし。ねぇねぇ王宮っていうんだから待遇がいいこと期待しているわ」 「ははっ」  『にほん』という国が何処にあるのか分からないが、何かの拍子に我が国までやってきたにしては、か弱い女性のようにただ怯えるだけでなく、前向きで明るい。かつてのヨウもこんな風に明るく前向きだったのではないだろうか。  前王に躰を弄ばれてしまうまでは、きっと利発な快活な少年だったろう。そんなことをまた考えてしまう。もう私の頭の中は、ヨウのことだけで一杯だ。
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