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時が満ちれば ２
もうすぐ昼の休憩時間だ。先ほど部下から内密にジョウが戻ってきたと知らせを受けた。
早く会いたい──
王の護衛中なのに、そのことで頭が一杯になってしまう。そのせいで心が落ち着かず上の空だ。
全く……俺としたことが。
近衛隊長を任されているのに、こんなことでは駄目だ。心の中で、ただひたすらに愛する人の帰りを待ち侘びているなんて、誰も知らない事実だ。
「隊長少し休憩を取られてください。昼になりましたので番を交代します」
王様の部屋で護衛をしていた俺に、部下が告げに来た。
「分かった」
駆け出したい気持ちを抑え、出来るだけ冷静に返答した。
＊＊＊＊
王宮の中の医局へ向かう俺は、自然と早足になっていた。
もうすぐ逢える──
医局のジョウの部屋の前に立つと、中から朗らかな女性の声が聴こえてきたので戸惑った。この声の主が、ジョウが連れてきた例の赤髪か。
ジョウの穏やかな声も静かに響い来た。一週間会えなかったのだ。すぐに抱き付きたい程恋しいのに、それが今出来ないことを悟った。
小さなため息を外に漏らした後、深呼吸して息を整えノックしてから入ることにした。
「入っていいか」
「ヨウ！」
それでも扉を開けた途端、ジョウの嬉しそうな声と表情に触れることが出来、ほっとした。
「ジョウ……お帰り」
「あぁ無事に彼女を連れて来たよ」
ちらっとジョウと話していた赤い髪の女を見て、はっと目を奪われた。
この王国の物ではない衣装と鞄を持っているのが気になったが、そんなこと以上に美しかった。目が覚めるような赤髪に、真っ白なきめ細かな肌。そして女性らしい体つき、目鼻立ちが整っているだけでなく聡明で大変美しい女性だ。
きっと男ならだれでも虜になるだろう。もしやジョウもそう思っているのだろうか。そう思うと胸の奥がチクリと針で刺されたように痛みだす。
「あなたが噂の近衛隊長？」
「えっ……そうだが」
「会いたかったわ！途中ジョウってばあなたの話を沢山するものだから、でも隊長っていうからどんなおじさんかと思ったら、まぁびっくり、まだ20代前半かしら？綺麗な男性ね！ジョウが褒めまくっていた通りだわ」
「……綺麗？」
俺が一番嫌な言葉だ。だがジョウが彼女を前に、俺の事をそんな風に話してくれたのが嬉しかった。
「それでヨウ、王様の具合はどうだ？」
「あぁ……それがまた脚の腫れが酷くなってきていて……」
「そうか、早速彼女に診てもらおう」
「あっ待て。その姿で王宮をウロウロされては困る」
「確かにそうだな、この国の服装に着替えてもらえるか」
「いいわよ。無事に『にほん』に帰ることが出来るのなら、言う通りにするわ」
「……にほん？」
何故かその言葉に俺は反応した。
どこかで聴いたような、俺に近い何かを感じた。一体どこの国だ？俺はそんな国に行ったことなんてない。なのに何故こんなにも懐かしく感じるのか。
＊＊＊＊
赤い髪の女を彼女のために用意した部屋へ案内し、食事と着替えを運ばせた。今この部屋にはジョウと俺の二人きりだ。
「ヨウ、君の元へ無事に戻って来られてよかったよ」
真っすぐにジョウが俺のことを見つめてくれる。
「あぁ」
ずっと我慢していた気持ちをあからさまに見せるのも伝えるのも恥ずかしく、そっけなく答えてしまう。
「ヨウ寂しかったか」
「……別に」
「素直じゃないな、君は」
「何故？」
「私には分かるよ。君が寂しかったということが」
「そんなことはない。王様の護衛で忙しい日々だったから、お前のことを考える暇なんてなかった」
「ふっ」
俺が何を言っても、ジョウは余裕そうに微笑んで聴くのみ。そして一歩また一歩と窓際へ俺を追い詰める。
「なっ何か、用か」
ぷいっと横を向いて目を逸らす。なんだか恥ずかしい。こんなの俺らしくない。
ジョウの男らしい手が俺の腰に伸びて来たと思ったら、ぐっと抱き寄せられ下半身が密着したので恥ずかしさが込み上げる。
「おっおい！？何をする。こんな明るいうちから。ここは王宮の中だ！」
「しっ黙って……少し静かに」
「ジョウ……」
「君に逢いたかった。一刻も早くこうやって抱きしめたかった。もうずいぶんと長い間、君と躰を重ねていない。」
「ジョウ……だが王様が……それに彼女のことも心配だし、当分無理だ」
「それで君は大丈夫なのか」
かぁっと顔から火が出る気持ちになってしまう。何もかも見透かされているようで、恥ずかしい。
＊＊＊＊
『月夜の湖』という平安王朝物語もスタートしております。「洋月の君」「丈の中将」という縁のある人物が登場します。同じく『重なる月』と深い関係を持つお話です。いずれ３つの話が合体しますので、両方読んでいただくとより、お話が深くなります。
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